改訂新版 世界大百科事典 「グライ土」の意味・わかりやすい解説
グライ土 (グライど)
gley soil
つねに地下水面が地表近くにある低湿な沖積地の土壌。日本では大部分水田地帯になっており,湿田と呼ばれるものがほぼこの土壌に相当する。つねに地下水で飽和された土層では,酸素が欠乏するとともに,微生物活動によっていろいろの物質が酸化態から還元態に変わる(たとえばFe(Ⅲ)→Fe(Ⅱ),Mn(Ⅲ),Mn(Ⅳ)→Mn(Ⅱ),SO42⁻→S2⁻など)。とくに土にふつう褐色の色を与えている酸化態の鉄Fe(Ⅲ)は還元態の鉄Fe(Ⅱ)に変わり,そのため土の色は青灰~緑灰色になる。還元状態の下で青灰~緑灰色をした土層をグライ層といい,グライ層が地表近くから出る土がグライ土である。
グライ土は地域的には北陸,東北,関東にひろく分布し,地形的には後背湿地,三角州,干拓地などの排水不良の低平地にひろく分布する。関東ではそのほか谷地田と呼ばれる洪積台地を浅く刻む狭い谷に出現する。グライ土の面積は約1700km2で沖積低地の1/3を占め,その比率は世界的にみてきわめて高い。グライ土は排水不良でかつ地盤軟弱のことが多いので,農業利用上は地下排水による土地改良が重要である。かつては田下駄をはいて農作業をしたり,舟で稲刈りをするほどの強湿田があったが,排水事業が進んでそのような沼田は姿を消した。1935年ごろまで不安定,低収に悩まされた東北,北陸地方の稲作が,今では収量水準で全国のトップを争うほどに変貌をとげた原動力の一つには大規模な排水対策がある。グライ土の排水改良は,土壌に適性な透水性を与え土地生産性を高める基盤をつくるとともに,農業機械の導入を可能にして労働生産性を高め,また田畑輪換可能な農地の造成にもつながる。
なお日本のグライ土の概念は,国際的に通用している概念とは異なり,日本独特のものであることに注意する必要がある。諸外国の〈グライ土〉の概念はやや広く,つねに地下水に飽和されている日本のグライ土のほか,変動する地下水の影響によって生成する灰色の土壌〈日本の灰色低地土〉をも含んでいる。
執筆者:三土 正則
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報