ケイ素(読み)けいそ(その他表記)silicon

翻訳|silicon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケイ素」の意味・わかりやすい解説

ケイ素
けいそ
silicon

周期表第14族に属し、炭素族元素の一つ。工業的にはシリコンということのほうが多い。石英やガラスは古代から知られており、とくにシリカ(二酸化ケイ素)とソーダなどを混合融解してガラスをつくることはよく知られていた。シリカは18世紀の終わりごろまでは一つの元素単体であるとも考えられていたが、19世紀に入ってから、これが未知の元素を含むものとして分離することが試みられるようになった。1811年ゲイ・リュサックとテナールは四フッ化ケイ素とカリウムを熱して粗製のケイ素を得たが、さらに1824年ベルツェリウスがこの方法を検討して実験を重ね、初めてケイ素を取り出すことに成功した。結晶が得られたのは1854年で、フランスのサント・クレール・ドビルHenri Étienne Sainte-Claire Deville(1818―1881)がアルミニウムの混合塩化物を溶融してアルミニウムを分離するときに初めて結晶として得られた。シリコンの名称はラテン語のsilex(ケイ砂)に基づいている。現在半導体としての需要が多く、工業的に高純度のものが大量に生産されている。

[守永健一・中原勝儼]

存在

地殻中には酸素に次いで2番目に多く、すべての岩石、天然水、大気、多くの植物や動物の骨、組織、体液にみいだされる。しかし、炭素と違って遊離状態では産出せず、酸化物または酸素のほか、アルミニウム、マグネシウムカルシウムナトリウム、カリウム、鉄などと化合して無数のケイ酸塩として、岩石、土壌、粘土などを構成している。

[守永健一・中原勝儼]

製法

無定形のものは珪砂(けいさ)をマグネシウムまたはアルミニウムで還元する。

  SiO2+2Mg―→Si+2MgO
工業的には、電気炉内でコークスにより還元する。結晶形のものはヘキサフルオロケイ酸カリウムをアルミニウム、カリウム、ナトリウムなどで還元する。

  3K2SiF6+4Al
   ―→3Si+2KAlF4+2K2AlF5
 市販品は97~99%の純度。きわめて純粋なものは、たとえば粗シリコンを塩化水素ガスと反応させてトリクロロシランSiHCl3とし、これを蒸留して精製してから水素還元してつくる。その他SiCl4、SiI4などとして精製してから還元することもある。さらに引上げ法やゾーンメルティング(帯融解法)で精製する。純度は99.99%以上が普通。電気特性上の純度でもいわゆるナインナインの純度99.9999999%のものも得られている。なお、シリコン多結晶製造用の中間原料についてはを参照。また、シーメンス法シリコンの製造工程についてはを参照。

[守永健一・中原勝儼]

性質

結晶は灰色で金属光沢がある。ダイヤモンド型構造で、ゲルマニウムとともに半導体としてよく知られている。無定形のものは褐色粉末であるが、これもダイヤモンド型構造である。真性半導体の比抵抗は室温で230キロオーム・センチメートル。3価(たとえばホウ素)または5価(たとえばアンチモン)の不純物の微量を加えると、それぞれp型またはn型の半導体となる。室温では空気中で安定であるが、フッ素とは激しく反応して四フッ化物をつくる。酸素とは400℃、塩素とは430℃、臭素とは500℃、硫黄(いおう)とは600℃、窒素とは1300℃、炭素とは2000℃で反応し、それぞれ二酸化物、四塩化物、四臭化物、二硫化物、窒化物、炭化物をつくる。普通の無機酸に対しては安定であるが、王水では徐々に侵される。フッ化水素と硝酸またはフッ化水素と過酸化水素の混合物にはたやすく溶ける。熱水酸化アルカリ溶液には水素を発生して溶けケイ酸アルカリとなる。融解状態の金属とはケイ化物をつくり、多くの金属酸化物は高温でケイ素によって還元され金属を遊離する。300~400℃で塩化メチルや塩化フェニルと容易に反応していろいろな有機クロロシランとなる。これから、ケイ素‐酸素結合で連結した鎖状分子にアルキル基アリール基のついたシロキサン、その重合体のシリコーン樹脂ケイ素樹脂)、シリコーン油などが導かれる。

[守永健一・中原勝儼]

用途

高純度ケイ素は半導体としてダイオードトランジスタ、IC(集積回路)、整流器、その他の半導体素子に盛んに利用される。シリコーンゴムシリコーン油など各種シリコーン高分子材料の原料として広く用いられるほか、金属精練における還元剤、脱酸剤として重要。また合金添加元素として金属材料関係に多量に用いられる。高ケイ素鋳鉄(15%ケイ素)は耐酸合金として知られる。ケイ素0.5~4.2%のケイ素鋼板は導磁率が高く、変圧器などの鉄心として重要である。銅合金では約4.5%添加されて電信・電話線などに用いられ、アルミニウム合金では約13%添加されてシルミン合金として自動車その他の車両部品に大量に用いられる。また炭化ケイ素の原料に用いられる。

[守永健一・中原勝儼]



ケイ素(データノート)
けいそでーたのーと

ケイ素
 元素記号  Si
 原子番号  14
 原子量   28.0855±3
 融点    1410℃
 沸点    2355℃
 比重    2.33(測定温度18℃)
 結晶系   立方(ダイヤモンド型)
 元素存在度 宇宙 1.000×106(第8位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 28.15% (第2位)
       海水 2×103μg/dm3

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改訂新版 世界大百科事典 「ケイ素」の意味・わかりやすい解説

ケイ(珪)素 (けいそ)
silicon

周期表第Ⅳ B族に属する炭素族元素の一つ。シリコンともいう。天然には遊離の状態では存在しないが,酸化物やケイ酸塩として岩石中に多く存在し,地殻形成の主成分となっている。1823年にJ.J.ベルセリウスがケイ化フッ素をカリウムで還元して初めて単離した。siliconの名称は,ラテン語の火打石(二酸化ケイ素SiO2から成る)を意味するsilexに由来している。

ダイヤモンド型構造をもち,モース硬度7。無定形ケイ素(褐色粉末)と結晶性ケイ素(暗黒青色)がある。空気中,常温では安定であるが,無定形ケイ素は空気中で加熱すると二酸化ケイ素SiO2を生ずる。結晶性ケイ素はフッ化水素酸には不溶だが,無定形ケイ素は溶ける。アルカリ溶液には両者とも水素を発生して容易に溶ける。

 Si+2OH⁻+H2O─→SiO32⁻+2H2

1000℃以上では窒素とも反応し,窒化ケイ素SiNを生成する。ハロゲンとは反応しやすく,フッ素とは常温で,塩素や臭素とはそれぞれ430℃および500℃以上で反応し四ハロゲン化ケイ素(SiF4,SiCl4,SiBr4)を生ずる。王水には徐々に侵される。高温では多くの金属酸化物を還元して金属を遊離させる。また,有機ケイ素化合物も多く知られており,アルカン(パラフィン系炭化水素CnH2n+2)に対応するシラン(水素化ケイ素SinH2n+2)およびその誘導体,シロキサン結合-Si-O-Si-O-を有するケイ素樹脂(シリコーンsilicone)などはその代表的なものである。

 エレクトロニクス工業における半導体材料として重要であり,また,ケイ素鋼などの合金元素,金属製錬の際の還元剤,脱酸剤,ケイ素樹脂の製造原料として用いられる。
半導体
執筆者:

工業的な純度のケイ素は,ケイ砂またはケイ石(主成分SiO2)とコークスを混合して,電気炉で高温度で還元して得られる。純度は原料によって異なるが,Si92~98%で,おもな不純物は,鉄,カルシウム,アルミニウムなどである。脱酸およびケイ素添加用に用いられるフェロシリコンも同様な方法でつくられる。合金元素としてはこの程度の純度のもので十分であるが,集積回路用半導体としての高純度のものは,この工業用ケイ素を精製してつくられる。その工程は次のとおりである。

 工業用ケイ素に300℃で無水の塩化水素を通じて,三塩化シランSiHCl3をつくる(三塩化シランは沸点31.8℃,融点-127℃で,空気中の水蒸気と激しく反応する)。次いでこの三塩化シランを精留して不純物を除去し,水素還元して多結晶ケイ素を得る。5~6mm角のケイ素棒に通電して1000~1100℃に加熱すると,この棒上で水素還元が行われ,三塩化シランの約1/3がケイ素になり,残りの2/3は四塩化ケイ素SiCl4となる。この多結晶ケイ素は,必要な微量のドープ剤(定められた特性を与えるために添加される不純物)とともに帯域溶融法(ゾーンメルティング)あるいは浮遊帯域溶融法によってさらに精製され,単結晶がつくられる(〈結晶成長〉の項参照)。四塩化ケイ素を水素還元する方法,モノシランSiH4を熱分解する方法もあるが,四塩化ケイ素の水素還元法は反応速度が遅く,モノシランの場合には原料モノシランの製造法に問題点があり,工業的には,おもに三塩化シランを用いる。
執筆者:

ケイ素はトクサ目などのシダ類,イネ科・カヤツリグサ科植物の細胞壁に多量に集積しており,またケイ藻の殻をつくるのに必須である。放散虫類の一部やケイ質カイメン類などでは,ケイ酸質の骨格構造が発達している。動物にとっても成育に役割を果たし,このケイ素の欠乏で骨の変形などが起こることがネズミなどで知られている。哺乳類においては,ケイ素は結合組織に最も豊富に見いだされ,ケイ酸のエステル様結合が架橋を構築して結合組織の弾性に寄与しているらしいとの説もある。しかしケイ素の生化学的挙動,生理機能の意義については,よくわかっていない。
執筆者:


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化学辞典 第2版 「ケイ素」の解説

ケイ素
ケイソ
silicon

Si.原子番号14の元素.周期表14族元素半金属の一つ.電子配置[Ne]3s23p2.原子量28.0855(3).質量数28(92.223(19)%),29(4.685(8)%),30(3.092(11)%)の3種の安定同位体と22から44までの放射性同位体が知られている.32Si がもっとも長寿命で半減期153 y の β 崩壊核種.1824年,J.J. Berzelius(ベルセリウス)が無定形ケイ素の分離に成功,結晶は1854年,H.S-C. Devilleによって得られた.元素名は,1808年にH. Davy(デイビー)がラテン語の“ひうち石”silexからsiliciumを提案,炭素と同族であることから語尾をonに替えて英語元素名がsiliconとなった.フランス語,ドイツ語の元素名はSilicium.蘭学者宇田川榕菴の「舎密開宗」(1837年)には悉里叟母(シリシウム)と記載されている.日本語名ケイ素はけい土に含まれる元素として命名された.
灰白色金属光沢をもつ結晶.ダイヤモンド型構造をもつ.格子定数α = 0.5430 nm,融点1410 ℃,沸点2355 ℃.密度2.3296 g cm-3(25 ℃).無定形ケイ素は褐色粉末.地殻には,単体ケイ素の形では産しないが,ケイ酸塩の形で大量に存在し,重量百分率で26.77% を占める.石英(けい砂,水晶)のような酸化物の形でも多量に産する.工業的にケイ素を得るには,石英砂にコークスを加え,電気炉で加熱還元する.

SiO2 + 2C → Si + 2CO

高純度のケイ素を得るには,ヨウ化ケイ素を熱分解する.

SiI4 → Si + 2I2

不純物が 10-9 以下の超高純度ケイ素は,四塩化ケイ素を1100 ℃ 以上に加熱した棒状ケイ素表面上で,水素で還元しSiCl2,SiH2Cl2ほかの不純物を取り除いてケイ素を得,帯状溶融法などでさらに精製することにより得られる.半導体用の単結晶ケイ素は,不活性雰囲気中で約1500 ℃ の超高純度ケイ素融液から種子結晶を徐々に引き上げる結晶引上げ法(チョクラルスキー法)で製造する.酸化数はおもに4であるが,3(Si2I6など),2(SiO,Si F2など),-1(NaSi-Ⅰ,KSi-Ⅰなど),-3(MoSi2-Ⅲ,YSi-Ⅲなど),-4(Mg2Si-Ⅳ,Ca2Si-Ⅳなど)もある.化学的には安定であるが,無定形ケイ素は結晶性ケイ素に比べてかなり活発で,空気中で加熱すれば燃焼し,二酸化ケイ素を生じる.またフッ化水素酸に溶ける.結晶性ケイ素はフッ化水素酸には不溶であるが,硝酸を加えて熱すると溶解する.また白熱程度に熱すると酸素や窒素と化合する.アルカリ溶液には水素を発してきわめて容易に溶ける.単体のケイ素は多くの金属と合金をつくる.周期表1~3族の金属,遷移金属元素とケイ化物をつくる.合金の相図はケイ化物,不定比化合物,金属間化合物の共存を示すことが多い.二ケイ化モリブデン(-Ⅳ)はサーメット,抵抗体として用いられる.酸素と親和性が強いので,製鋼の際,鉄との合金フェロアロイの形で脱酸素剤として利用される.炭素と安定な有機ケイ素化合物をつくり,シリコーン油,ケイ素樹脂などは工業的に生産され利用度も大きい.半導体各種デバイスのほか,太陽電池に(多)結晶,アモルファスの両形態が用いられる.量的には,わが国の最大需要は電磁鋼板など製鋼用で,ついでケイ素樹脂など化学用である.[CAS 7440-21-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケイ素」の意味・わかりやすい解説

ケイ素
ケイそ
silicon

元素記号 Si ,原子番号 14,原子量 28.0855。周期表 14族,炭素族元素に属する半金属元素。天然には遊離の状態で産出しないが,ケイ酸塩,酸化物 (石英) の形で広く岩石を構成する。地殻存在量は酸素に次いで多く,27.6%を占める。工業的にはアーク炉中で石英を炭素で還元し,酸洗いなどの処理をすると純度 99.9%程度のものが得られる。単体は黒灰色の針状ないし板状のゆがんだ正八面体の結晶。比重 2.33,融点 1420℃。結晶構造はダイヤモンド構造,格子定数 a=5.43Å ,屈折率 3.47,比誘電率 11.7,比熱 7.66×10-4J/(K・g) 。間接遷移型のエネルギー帯構造をもち,エネルギー間隙 1.1eV,真性半導体の室温での抵抗率は 230kΩ・cm である。3価の元素 (たとえばホウ素) あるいは5価の元素 (たとえばリン) などの不純物を添加すると,それぞれp型あるいはn型半導体となり,不純物量にほぼ比例して抵抗率が減少する。典型的な半導体。王水に徐々におかされるほか,フッ化水素と硝酸の混合物や水酸化アルカリ溶液にもおかされる。シランシリコーンの製造,トランジスタ,ダイオード,太陽電池の製造に用いられるほか,フェロシリコン,シリコンブロンズ,シリコン銅などの合金用に使用される。高温における還元剤としても重要である。また,窒素ケイ素や炭化ケイ素はセラミック材料として用いられる。半導体材料としては,炭素還元で得られたケイ素を四塩化ケイ素 SiCl4 ,あるいはトリクロロシラン SiHCl3 の形で蒸留精製して高純度化し,それらを熱分解させて不純物量が 10-10 程度の高純度多結晶ケイ素とする。その後,不純物を必要量添加して円柱状の単結晶を製作する。現在では直径約 20cmのケイ素単結晶が量産されており,これを薄板 (ウエハ) に切断し,研磨して半導体素子の製作に供する。ウエハを種結晶として用い,エピタキシャル技術によってこの上にごく薄い成長層をつくり,この部分に素子を形成する方法も行われている。ケイ素を用いた半導体素子はゲルマニウムを用いたものに比べ高温まで (200℃まで) 安定に動作する。ケイ素の表面酸化膜 SiO2 が電気的,化学的,機械的に安定であることもケイ素の利点である。 SiO2 膜は素子製作時の拡散工程のマスク,表面保護膜などに有効に利用されている。

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百科事典マイペディア 「ケイ素」の意味・わかりやすい解説

ケイ(珪)素【ケイそ】

元素記号Si。原子番号14,原子量28.084〜28.086。融点1412℃,沸点3266℃。炭素族元素の一つ。シリコンとも。1823年ベルセリウスが単体を初めて分離。結晶は暗青色正八面体でかたくもろいが,無定形のものは褐色粉末。硬度7。常温空気中で安定。酸素とは400℃以上で反応して二酸化ケイ素SiO2となる。無機酸には安定であるが王水には侵され,水酸化アルカリ水溶液には水素を発生して溶ける。半導体としてトランジスターやダイオードに,合金としてケイ素鋼などに用いられるほか,製鉄の際の脱酸素剤,ケイ素樹脂の原料とされる。天然には遊離で存在しないが,ケイ酸塩あるいは石英として岩石の主成分をなし,地殻中には酸素に次いで多量に存在する(クラーク数25.8)。工業的には天然産のケイ砂を原料とし,電気炉中で炭素で還元してつくる。半導体原料としての純粋なケイ素は四塩化ケイ素SiCl4を亜鉛で還元してつくり,さらにゾーンメルティングを行って精製する。
→関連項目高純度金属シリコン・バレー信越化学工業[株]

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栄養・生化学辞典 「ケイ素」の解説

ケイ素

 原子番号14,原子量28.0855,元素記号Si,14族(旧IVa族)の元素.シリコンともいう.非金属元素に属する.非必須栄養素とされるが,必須性を主張する意見もある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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