翻訳|contact lens
眼に近視,遠視,乱視などの屈折異常があるときは,眼鏡を装用してその屈折異常を矯正するが,レンズを小さくして,角膜上に直接密着させて用いるものをコンタクトレンズという。コンタクトレンズは,19世紀前半にその着想が始まり,後半には実験段階に入ったが,初めはガラスを材料としていたため,装用は非常に困難であった。しかし,1940年代になると,プラスチックのコンタクトレンズができ,その後,レンズの材質は,著しく改良されている。日本では,第2次大戦後に研究が始められ,1951年日本コンタクトレンズ学会が発足,60年同学会でコンタクトレンズの最初の規格が制定された。
コンタクトレンズは以下のような目的で使用される。
(1)光学的使用 コンタクトレンズを屈折異常の矯正のために用いることを光学的使用という。コンタクトレンズを装用すると,角膜とレンズの間に空気の層がなく,その間は涙液でみたされ,眼球運動とともにレンズも動くので,かけ眼鏡と比較してレンズ収差が少なく,レンズによる像の拡大・縮小も少ない。これらの特徴から,強度の近視や遠視,左右眼に著しい屈折度数の差がある不同視の場合,また1眼のみの白内障で水晶体摘出をした場合は,コンタクトレンズの装用が適している。角膜が原因でおきている不正乱視は,眼鏡では矯正することができないが,コンタクトレンズでは,角膜とレンズの間の涙液層がレンズの働きをして像のひずみを修正するので,よりよい視力をうることができる。円錐角膜の場合も同じようなことがいえる。
(2)治療的使用 角膜に障害のある場合,その角膜を保護する目的でソフトコンタクトレンズを装用することがある。また薬液を点眼するときにソフトコンタクトレンズに吸収させ,その薬物の持続的効果を期待して使うこともある。これらの目的での使用を治療的使用という。
(3)その他の使用法 特殊な使用法としては,病的なまぶしさをとるための着色レンズ,義眼としての利用,あるいは検査診断のための利用もある。最も多いのは,かけ眼鏡の代りに,美容的あるいは職業的必要で装用する光学的使用である。
現在使用されているコンタクトレンズは,ハードタイプとソフトタイプとに大別される。ハードタイプは従来,ポリメチルメタクリレート(PMMA)を材料とし,堅く,直径8~9mmのものが多く用いられてきたが,角膜への障害などが知られて,現在は徐々にガス透過性の高いものが主流となっている。ソフトタイプのものはそれよりやや大きく,含水性の高さでさらに分類され,非含水性で酸素透過率の高いものも使われている。
ハードタイプのものは,光学的に優れていて,乱視の矯正も可能であり,取扱いも便利であるが装用感に問題が多い。それに対し,ソフトタイプのものは装用感が良いのが利点であり,逆に,光学的にはハードレンズより劣っており,汚れがつきやすく,そのために角膜に障害を起こすこと,それを防ぐためには洗浄と保存に十分な注意が必要で手間がかかることが欠点となっている。ハードタイプのガス透過性の良いレンズは,破損しやすいことがあり,性質としてハードとソフトの中間といえる。
以前のPMMAハードレンズは酸素透過性が悪いために長時間の使用は不可能であり,間違って装用したまま眠ってしまったため,重篤な角膜障害を引きおこすこともあった。しかし最近は酸素透過性の良いレンズが普及してきて長時間装用ができるようになった。また,レンズの価格が安くなったことで,1週間連続装用してその後廃棄するディスポーザブルタイプのレンズもできてきた。ディスポーザブルレンズには毎日捨てるデイリィユースのものもある。
さまざまな改良が加えられて,レンズの性能が向上したとはいえ,眼の中に異物を入れておくことの危険性がなくなったわけではない。したがってコンタクトレンズを使用する人は,レンズの洗浄や保管を決められたとおり励行することが求められる。また,決められた使用期限を過ぎたレンズを使わないことも重要な注意点である。さらに定期的に眼科医師の検査を受け,角膜障害の有無をチェックしなければならない。
執筆者:山本 裕子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
眼球に密着(コンタクト)させて目の屈性異常を矯正する小さくて薄いレンズ。CLとも略される。19世紀末から使われ始めた記録がある。最初はガラス製であったが、1930年以降ポリメチルメタクリレート(PMMA)を素材にした強角膜レンズが考案・作成された。1948年には現在のハードコンタクトレンズ(HCL)の原型となる角膜レンズが作製され、角膜に涙の表面張力を利用して装着するレンズとして普及した。しかし、PMMAレンズは酸素透過性をもたないため、長時間装用や不規則な装用で角膜への酸素供給不足による充血や角膜障害をおこしやすくなる欠点がある。このため、酸素透過性の高いケイ素やフッ素含有の樹脂を素材としたガス透過性HCL(RGPCL)が開発され、現在は日本のHCLはほとんどRGPCLになっている。
一方で、より柔らかい素材で角膜と強膜の境界を超えて被覆するソフトコンタクトレンズ(SCL)は、HCLより遅れて開発された。装用感がよく装用のための練習も少なくすみ、安価に生産できるレンズとして急速に普及が進みCLの主流になっている。高分子間の空隙(くうげき)に取り込んだ水を介して角膜に酸素を供給するハイドロゲルレンズと、高いガス透過性をもつシリコーン素材が混合することで十分な角膜への酸素供給を可能にしたシリコーンハイドロゲルCL(SHCL)に分けられる。SCLとしての共通点はあるが、素材の違いによりそれぞれ異なる性質をもつレンズとして扱うのが適切である。
素材とともに、CLのデザインは安全に角膜の上に装着するための種々のくふうがされている。CLを安全に装用し良好な視力を得るためには、使用者の目の屈折の状態、涙液の状態を含めた目の診察と角膜形状などの計測を行い、最適なベースカーブ、レンズの大きさ、レンズデザインを選ぶ必要があり、専門知識をもった眼科医師の診察が必要である。
通常の屈折矯正に加えて、乱視用のレンズ、遠近両用レンズがHCLにもSCLにもある。また、SCLには角膜が強く混濁した状態を目だたなくするための整容目的虹彩(こうさい)つきや、おしゃれ目的のカラーコンタクトレンズなどがある。
CLは、日本では薬事法でクラスⅢの「高度管理医療機器」に指定されており、販売するには高度管理医療機器販売業の許可を得る必要がある。おしゃれ目的のカラーコンタクレンズも同様の扱いになっている。
CLは日中など活動している間に装用して使用し、就眠前には取り外すのが基本であるが、酸素透過性の高いCLの一部は、就眠中も連続して装用できる承認をとっている製品もある。特殊な使い方になるが、角膜形状を変化させて屈折異常(おもに軽い近視)の程度を減らす目的で、就眠中に装着し覚醒後はレンズを外して生活するオルソケラトロジーレンズ(特殊なカーブをもつHCL)がある。
HCLの多くは汚れの洗浄等を適切に行えば、2年近くは使用可能なものが多いが、SCLは、使い捨てレンズ(外したら捨てて再装用しない)、頻回交換レンズ(最長2週間で交換する)、定期交換型(最長1~3か月で交換する)レンズが主になる。使い捨てレンズを除けばHCLもSCLも、取り外した後のレンズごとに指定されたレンズケア(洗浄、消毒、保管など)が必要である。レンズケアが不適切であると重症の角膜障害をきたすリスクが高くなることが明らかにされている。
[村上 晶 2024年9月17日]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…病的近視では眼底に網脈絡膜萎縮などの変化を伴い,網膜剝離(はくり)や眼底出血などの合併症をおこしやすい。
[近視の治療]
凹レンズの眼鏡またはコンタクトレンズを用いる。近視は教室で黒板の字を見るときなど,遠方が見にくいだけなので,眼鏡を用意しておいて,必要なときだけ用いるようにしてもよい。…
※「コンタクトレンズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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