日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴカイ」の意味・わかりやすい解説
ゴカイ
ごかい / 沙蚕
clam worms
環形動物門多毛綱遊在目ゴカイ科Nereidaeに属する種類の総称、またはそのなかの1種。ゴカイNeanthes japonicaは体長5~12センチメートルで細長く、70~130の環節がある。頭には1対の短い感触手とやや太い副感触手、それに4個の目がある。囲口節には4対の感触糸があっていぼ足はない。次の節からは各環節の両側にいぼ足があり、これより生ずる20本内外の剛毛を使って体をくねらせながら歩く。吻(ふん)の先端には大きな黒い2個の鎌(かま)形の大あごがあり、両側から餌(えさ)を挟んで食道へ送り込む。ゴカイは雑食性で小さな動物や海藻を食べるほか、砂粒を飲み込み、表面についている微小生物を消化する。ゴカイのすんでいる場所に餌をばらまくと、穴の中から体を乗り出して餌をくわえ、すばやく潜り込むのがみられる。背中側と腹側の正中線上に1本ずつの太い血管が走っていて、赤い血液が背中側を後方から前方へ、腹側を前方から後方へ流れるのが体壁を通してよくみえる。とくにいぼ足には毛細血管網が発達していて、ガス交換が行われる。
雌雄異体であるが、生殖時期以外では雌雄を外形から区別できない。ゴカイ科のなかの大部分の種類は生殖時期になると目が大きくなり、体の後ろ半分のいぼ足がひれ状に広がり、また剛毛もオール形に変わって水中を泳ぐのに便利な生殖型に変形する。しかし、この種は生殖時期になっても生殖型に変化することはなく、雌は体内に充満した卵で濃緑色に、雄は精子で乳白色になる。そして10月から翌年1月の間の生殖時期には、いままですんでいた真水の影響の強い川口の泥の中から浮き出して海へ移動し、そこで生殖が行われる。卵が正常な発生をするためには、純海水が必要であって、受精後約10日で4対のいぼ足をもった幼生になり、盛んに海中を泳ぎ回る。やがて底生生活に入り、汽水に適応する能力を生じてから川口へ移動する。
ゴカイはハゼ、カレイ、シロギス、ウミタナゴなどの釣り餌(え)に利用され、地方によってはムザムシ、ヒール、カンビール、カワミミズ、ミズゴカイなどとよばれている。
ゴカイ科の種類は、日本で40種ほどが知られているが、東北地方から北海道には比較的少なく18種にすぎない。ゴカイ科のなかには、釣り餌として水産業上重要なものが多い。なかでも前述のゴカイのほか、日本各地の沿岸に生息するイトメTylorrhynchus heterochaetusや、本州中部地方以南の沿岸に生息するウチワゴカイNectoneanthes oxypoda、北海道から岩手県の宮古(みやこ)湾付近まで生息が知られているエゾゴカイNereis vexillosaなどが有名である。また、ゴカイ科のなかには変わった習性のものもある。北海道沿岸に生息するジャムシNeanthes virensは、体長90センチメートル、幅4センチメートルにもなり、生殖時期にこれらが夜間水面を泳ぎ回るのは気味が悪いほどである。北日本の沿岸に生息するエリマキゴカイCheilonereis cyclurusは、ヤドカリと同じ貝殻の中に入って生活していて、ヤドカリが餌を食べ始めると入口のところへはい出してきて残りものを食べる。この際、ヤドカリはゴカイを食べようとしない。外国産のある種のゴカイは雌と雄が同じ管の中にすんでいて、雌は管の中に卵を産んだあと死ぬ。すると雄は雌の死骸(しがい)を食べてしまい、卵の世話をするという。近年の釣りブームで日本産のゴカイ類だけでは供給が足りず、韓国や台湾、フィリピンなどから生きているゴカイ類(アオイソメなど)を輸入している。国内でも高知県や愛媛県、種子島(たねがしま)などではゴカイの養殖が盛んである。
[今島 実]