瀬戸内海から四国北部に分布する新第三紀火山岩のなかに,マグネシウムMgに富む斜方輝石(古銅輝石)の斑晶のほかには斑晶が少なく,石基は比較的ガラス質で緻密な安山岩が産出し,これを特にサヌカイト(讃岐岩,讃岐石ともいう)と呼ぶことがある。この岩石の化学組成はマグネシウム対鉄の比(Mg/Fe比)が異常に大きい特徴があり,その一部は上部マントルの水を含んだカンラン岩が部分溶融してできたマグマが,直接上昇固結したためにできたとされている。同様の特徴をもつ岩石は小笠原諸島やパプア・ニューギニアなどにも知られ,一括して高マグネシア安山岩と呼ばれて,1970年代の火成岩成因論争上注目された岩石である。板状節理に沿って割った岩片をたたくと澄んだ音がするため,香川県ではカンカン石の名でみやげ品としている。
執筆者:宇井 忠英
考古学では,サヌキトイドsanukitoidなどを含む,より広い範囲の岩石をサヌカイトと呼ぶ。この石は日本の石器時代に黒曜石,ケツ岩,ケイ岩などとともに石器用石材として好んで用いられた。緻密で硬く均質な部分は,打ち割った縁が鋭く,刃物として有用である。古くから活用された原石産地は西日本に偏在し,岐阜県下呂,奈良県・大阪府境の二上山周辺,香川県金山,五色台(サヌカイトの学名のもとになった讃岐石の産出地),広島・山口県境の冠高原,佐賀県多久,岡本周辺が知られる。黒曜石材の得がたい瀬戸内周辺では打製石器に多用されている。他の石材に比べやや板状に剝げやすい性質をもつが,これは製作実験によれば大型の剝片を得るのに必須の条件である。近畿,瀬戸内周辺地域では旧石器時代から縄文時代をへて弥生時代の中ごろにいたる長期にわたって利用されてきた。特筆できるのは,旧石器づくりにサヌカイトの性質をよく生かした瀬戸内技法をあみだしたことと,弥生時代の石槍と呼ばれる幅3~4cm,長さ30cmをこえる打製石器があることである。緻密で硬いため磨きにくいようで,磨製の石器はごくまれにしか発見されていない。近年,蛍光X線を用いた分析法により,岩石を構成する元素の測定が容易となり,産地による特徴が明らかにされるにつれて各産地の石材が利用される範囲(分布圏)をいっそう明確にとらえることができるようになり,石器用石材の交易の問題,ひいては文化圏に関する興味ある事実が明らかとなってきた。
執筆者:松沢 亜生
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出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…石器の材料となる黒曜石はアメリカや西アジアでも広く使用されたが,日本では十勝岳,長野県和田峠,伊豆,隠岐,大分県姫島,阿蘇などの地域に産地が限定される。サヌカイトは奈良県・大阪府二上山,兵庫県岩屋,香川県金山,広島県冠山などに産するものが使用された。これらの石材は先縄文時代から弥生時代まで,打製石器の石材となった。…
…最高峰は標高479mの大平山。台地上からは旧石器時代の遺物が多数出土し,その材料の妙音を発するサヌカイト(別名カンカン石)は緻密な安山岩でこの地方の特産物である。台地上には自然科学館,植物園など教育施設が多く,県下の小・中学生が合宿して行う五色台教育は名高い。…
※「サヌカイト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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