フランスの法学者。ブルゴーニュのブドウ園主の子に生まれ,カトリック学院法学部,パリ大学博士課程を経て,1884年教授資格取得。グルノーブル大学に赴任,翌年ディジョン大学に移って法制史・憲法を講じ,95年以降パリ大学において刑事立法,民法,比較民法の講座を歴任した。一方ではローマ法以来の法史の造詣,他方では諸外国法の研究をもって,早くから才気煥発かつ独創的な学風を築き,多彩な分野で膨大な著作を残した。比較法国際会議(1900年,パリ)の組織,立法研究協会の設立運営,民法季刊雑誌(1902創刊),民法典100年記念論文集(1904)の企画などに積極的にあたった。特筆に価するのは,私法の解釈論において,民法典の教義学的説明に終始した注釈学派école del'exégèseの方法を排し,法と社会生活との結びつきを重視し,判例の役割を強調した点である。成文の尊重を第一義的としつつも,社会的経済的変化に即応した法文の解釈を要請するこの現実論的・歴史法学的な方法は,進化的解釈interprétation évolutiveと呼ばれ,とりわけ無過失責任の判例法形成に重要な影響を与えた。しかし他面では判事の恣意を警戒し,自然法の枠組み(内容は時代により相違しうる)を法的安定のよりどころとする点でドイツの歴史法学とは一線を画する。比較法の学問的確立の努力もまた,解釈の客観的基礎の付与の目的からであり,とりわけドイツ民法典(1900)の研究・翻訳は,フランス法学への大きな刺激となった。〈民法典の彼方へ,しかし民法典を通じて〉という有名な言に要約されるように,伝統的な個人と自由との諸原理を尊重しつつ,法の社会化のための新たないぶきを諸法分野に投じた功績は大きい。ジェニーとともに科学学派école scientifiqueの両巨頭と並び称せられるゆえんである。
執筆者:北村 一郎
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