サンキュロット(その他表記)Sans-culottes

デジタル大辞泉 「サンキュロット」の意味・読み・例文・類語

サン‐キュロット(〈フランス〉sans-culotte)

フランス革命原動力となった、都市の手工業者や小商店主、労働者などの下層市民層の称。貴族やブルジョアジーの着用したキュロット半ズボン)をはかない者の意。

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精選版 日本国語大辞典 「サンキュロット」の意味・読み・例文・類語

サン‐キュロット

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] sans-culottes 「キュロット(貴族や金持の着用する膝までの半ズボン)をはかないもの」の意 ) フランス革命期の手工業者、工場労働者などから成る民衆につけられた名称。議場外勢力として革命を推進した。
    1. [初出の実例]「大道演説、自由帽、サンキュロット、ギヨチン」(出典:星座(1922)〈有島武郎〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「サンキュロット」の意味・わかりやすい解説

サン・キュロット
Sans-culottes

フランス革命期の民衆,とくにパリをはじめとする都市の民衆を指し,革命期の民衆運動の基盤となった社会層をいう。この呼称は,1792年以降に,まずパリの民衆を指すものとして用いられ始め,やがて他の都市でも用いられるようになったが,他の都市ではパリにおけるほどは一般化しなかった。サン・キュロットという言葉は,キュロット(貴族やブルジョアのはく膝までの半ズボン)をもたない者,という意味であり,彼らは,ふつうの仕事着である長ズボン(パンタロン)と短い上着をつけ,好んで自由の象徴であるフリジア帽という赤いやわらかな縁なし帽をかぶり,しばしば長剣(サーベル)や槍を携行した。彼らは,貴族や大商人や金融業者や大地主など,総じて〈富裕者〉と呼ばれる階層に対して敵意をもっていたが,社会の最下層をなす乞食や浮浪人などとは一線を画しており,小ブルジョアや自由業者から賃金生活者までを包含する幅広い社会層をなしていた。つまり,多少の財産や道具をもちながら,みずからも労働に従事して家族を養っていることが,サン・キュロットの特徴であった。彼らのなかで賃金生活者の占める割合は10~20%くらいと推定されており,最も多数を占めるのは各種の手工業者と小商店主であり,なかには若干の労働者を雇用する企業家や親方も少数ながら含まれていた。したがってサン・キュロットは一つの社会階級をなすものではなかったが,その大多数は資本主義の発展によってしだいに没落を余儀なくされているような,小規模な手工業者,職人,小商店主,小商人などから成っていた。

 このような特徴をもつサン・キュロットは,革命期の民衆運動の担い手として,政治的にはデモクラシー(とくに直接民主政)を推進しようとし,経済的にはみずからの生活を擁護するために統制経済平等主義の徹底とを要求した。彼らは,人民主権の原理に立って,人民による法律の批准権や議員の監督権と解任権を要求し,また人民による行政府と行政官の監視を要求し,そのような手段によって直接民主政を実現しようとした。とくにパリでは,48の地区(セクシヨン)ごとに設けられた革命委員会や地区総会と各種の民衆結社とが,サン・キュロットの運動の拠点となった。そして彼らの経済的な要求は,所有権に対する生存権の優位の原理に立ち,食糧をはじめとする生活必需品の価格統制の実現や,諸商品の独占や買占めの禁止,労働権と被救済権の確立,などを求め,さらには商工業や農業の経営規模に一定の限度を設けたり,財産の最高限度を設けたりして所有権を制限することを求めるなど,平等主義の徹底を指向していた。こうしたサン・キュロットの政治的・経済的要求は,国民公会内の公安委員会などに権力を集中しようとする革命的独裁の原理にそむき,また経済的自由主義を望むブルジョアジーの利害と対立するものであったから,結局はほとんど実現されないままで終わった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンキュロット」の意味・わかりやすい解説

サン・キュロット
さんきゅろっと
sans-culotte フランス語

フランス革命期の小ブルジョアジーの呼び名。ブルジョアジーから疎外された都市の小商店主、小親方、職人をさし、ひいては農民をも含むこととなる。この名はもともと、当時の上層階級、貴族やブルジョアジーが着たキュロット(半ズボン)ではなく、長ズボンを着ていた小ブルジョアジーが「キュロットなし」つまり「サン・キュロット」という蔑称(べっしょう)を与えられたことに発するのであるが、これを逆手にとってむしろ誇りをもって自称としたもの。

 彼らは、雇用労働に頼らない小規模の独立自営を理想として追求するため、封建社会打倒後の新しい社会をつくろうとまっしぐらに資本主義を目ざし、雇用労働を必須(ひっす)の条件とする大規模・大経営コースをとるブルジョア的理想とは対立するものであった。この二つの路線は、自由主義対平等主義、モンテスキュー主義対ルソー主義といった形で表面化するが、ブルジョアジーが指導し、サン・キュロットがそれを推進し、協力するということが続く限り、革命は前進したといいうる。革命期の種々の民衆運動中、1789年7月のバスチーユ攻撃、同年10月のベルサイユ行進、92年8月10日の人民蜂起(ほうき)、93年5月31日~6月2日の蜂起はおおむね両者の協力が成立していたということができるが、91年7月17日のシャン・ド・マルスの虐殺、92年6月20日の蜂起などではサン・キュロットのみの運動で大きな効果をもちえなかった。93年の蜂起で権力を握った山岳派(モンタニャール)が小ブルジョア独裁をとってからは、ブルジョアジーとの協力は破れ、しかも小ブルジョアジーのみを基盤とするアンラジェ(過激派)やエベール派といった分派が生まれ、独裁の必要上これらを抑えざるをえなくなったため、94年7月の「テルミドールの反動」でブルジョアジーが反撃に転じたとき、もろくも敗退することとなる。

[樋口謹一]

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百科事典マイペディア 「サンキュロット」の意味・わかりやすい解説

サン・キュロット

フランス革命の推進に大きな役割を果たした民衆層の呼名。語義はキュロット(当時の貴族・ブルジョアの服装である膝(ひざ)までのズボン)をはかぬ者という意味で,主として革命期の手工業者,小商店主,初期工場労働者らから成る幅広い社会層をさす。パリの各区を基盤に,ブルジョアジー中心の議会とは別個の政治勢力を形成した。
→関連項目革命暦キュロット恐怖政治ジャコバン・クラブ大恐怖マラ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サンキュロット」の意味・わかりやすい解説

サン=キュロット
Sans-Culottes

フランス革命期における革命的大衆をさす。小商工業者,被雇用者,小土地所有農民,小借地農民などから成り,貴族的有産者を象徴する「金ぴかの半ズボン (キュロット) 」ではなく長ズボンを着用したところからサン=キュロットと呼ばれた。彼らはみずから勤労する階級であり,「愛国者,自由と正義と人民の友」とも定義され,第三身分のなかでも「ブルジョアジー」からは区別された「民衆」と同義とみなすことができる。革命の過程でのもろもろの事件 (バスティーユ牢獄の奪取,チュイルリー宮殿襲撃,ジロンド派追放に直結する国民公会包囲) へのサン=キュロットの直接介入の動機は,彼らの消費生活の要求に結びつくものであり,恐怖政治の政策の重要な支柱となった最高価格法,買占め取締り法,食糧徴発,公設貯蔵庫などの制度は,サン=キュロットの国民公会に対する公然の圧力の結果でもあった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「サンキュロット」の解説

サンキュロット
sans-culottes

フランス革命期の手工業者・小商人・労働者など,パリをはじめとする都市の民衆に対する呼称
「短ズボン(キュロット)をはかぬ者」の意で,当時キュロットをはいていた貴族やブルジョワジーからさげすんだ意味に用いられた。小ブルジョワ的・革命的な社会集団で,山岳派を支持し,バスティーユ襲撃,ヴェルサイユ行進,8月10日事件など革命の原動力となった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「サンキュロット」の解説

サン・キュロット
sans-culotte

キュロット(膝までのズボンで貴族,ブルジョワの服装)を持たないという意味で,フランス革命期の民衆をさす。手工業者,小商店主,初期工場労働者から構成され,セクションを基盤にして議会とは別個の政治勢力をなした。

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