改訂新版 世界大百科事典 「シノアズリー」の意味・わかりやすい解説
シノアズリー
chinoiserie[フランス]
中国趣味,さらには,ヨーロッパ人にとっては珍奇で幻想的な中国産の骨董品,それを模倣した工芸品,中国風の装飾モティーフをもいう。中国趣味あるいは東洋趣味というものを広義にとれば,3世紀,ドゥラ・ユーロポスで中国織物の図案の模倣がなされ,ビザンティン美術でも,竜,鳳凰などの文様の伝来が見られる。とくにマルコ・ポーロ以降,さまざまな局面,たとえばルネサンス絵画の山岳表現などに中国の山水図などの影響が認められる。しかし,狭義には,東インド会社による交易,宣教師たちの活動によって,17,18世紀,ヨーロッパの美術工芸に多くの影響をあたえた中国趣味を指す。とくにシノアズリーの用語は,この狭義に用いられることが多い。ルイ14世時代にはすでに衣装,織物,絵巻など大量の中国絵画,デザインがもたらされ,それらの収集品は,装飾画家たちの無限の発想源となったし,また中国の陶器は,磁器の製法,形態,図案で各地の陶芸を刺激している(マイセン磁器)。すでにマリー・ド・メディシスは,工芸家たちにさまざまな品を〈中国風〉にすることを命じ,建築家ルイ・ル・ボーがルイ14世のために建てたベルサイユの〈陶器のトリアノン〉は,中国趣味流行の契機となる。うるし技法の使用,家具や装飾パネル,陶器絵付けにおける中国風モティーフ(唐草模様やそれに猿を配したいわゆるサンジュリーsingerie,笠をかぶり中国風の衣装の人物,帆かけ舟や釣り人,あずまや,塔など)の採用,中国風,イギリス風の自然庭園などがあらわれる。そこには完全な模倣から独自な摂取と展開があるが,基本的にはバロック,ロココの装飾美学の線に沿った流行である。イギリスの需要のためにインドで〈中国風〉織物が生産され,さらにそれが中国で模倣されて輸出されるという事態も起こっている。18世紀末以降しだいにシノアズリーは下火となり,19世紀半ばには,日本趣味(ジャポニスム)に席をゆずることになる。
→オリエンタリズム
執筆者:中山 公男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報