改訂新版 世界大百科事典 「シュウ(蓚)酸」の意味・わかりやすい解説
シュウ(蓚)酸 (しゅうさん)
oxalic acid
分子内に2個のカルボキシル基をもつジカルボン酸のうちの最も簡単なもの。生体内でグリオキシル酸の酸化によってできる代謝副産物である(グリオキシル酸回路)。多くの植物中にカリウム塩やカルシウム塩などの形で存在し,遊離の酸としてもカタバミ(Oxalis属で,ここからoxalic acidの名がきている),スイバ,バショウなどに含まれることから,フランスの化学者A.L.ラボアジエによって命名された。日本語名のシュウ(蓚)酸はスイバの漢名“蓚”による。比重1.90,融点189.5℃。吸湿性の無色結晶で,空気中に放置すると2分子の結晶水をもつ2水和物(融点99.8~100.7℃)になる。水やエチルアルコールに溶けやすいが,エーテルなどの有機溶媒には溶けにくい。二塩基酸であることから水中では2段階の解離を行う(25℃における酸解離指数pK1=1.271,pK2=4.266)。190℃付近で分解し,ギ酸,一酸化炭素,二酸化炭素を生じる。種々の金属と安定な塩をつくる。ある種の菌類,二枚貝の外套膜,人間の尿中にも少量含まれて,尿中のシュウ酸量が増加する症状はシュウ酸塩尿と呼ばれている。シュウ酸は多量に摂取すると,人体からカルシウムを奪い不溶性のシュウ酸カルシウムCaC2O4となり,尿路結石の原因ともなる。酸化の最終産物であるので,特殊な微生物のほかは代謝できない。
おがくずのアルカリ処理,砂糖の硝酸酸化や,水酸化ナトリウムに一酸化炭素を吸収させて生成するギ酸ナトリウムを加熱してシュウ酸ナトリウムとし,さらに水酸化カルシウムによってカルシウム塩に変え,次いで硝酸で処理するなどの方法で製造する。染料などの原料,繊維,麦わら,皮革の漂白剤,鉄さびの除去剤,インキ消しなどに用いられるほか,2水和物が純粋に得られることから中和滴定や酸化還元滴定の標準物質として使われる。
執筆者:井畑 敏一+柳田 充弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報