シラス(白色砂質)
しらす
南九州、とくに鹿児島県に広く分布する軽石質・火山灰質の白色堆積(たいせき)物を総称する俗称。主として火山ガラス(マグマが急に冷えたときにできたガラス)、斜長石、石英および輝石からなる。時代や成因が違っても、白っぽい堆積物はシラス(白州、白砂)とよばれてきた。現存しているシラスの大半は鹿児島湾内の姶良(あいら)カルデラから2万5000年前に噴出した入戸(いと)火砕流堆積物で、その体積は200立方キロメートル、厚さは160メートルに達する。堆積物の中部から下部が所によっては溶結して、暗灰色の灰石(はいいし)とよばれる硬い岩になっているが、非溶結部はシャベルで削れるほど軟らかく、水を含むと強度がきわめて低下する。
[池田 宏]
シラスは通常、中生層または安山岩の上に厚さ数メートルから100メートル以上の層をなして覆っており、その上部は火山灰土壌となっている。シラス台地は切り立った断崖(だんがい)となって河川に接しているため、台風などによる崖(がけ)崩れでしばしば大きな被害を生ずる。シラスが直接地表に露出した所、または再堆積した所につくられた耕地は生産力がきわめて低い。それはシラスがほとんど粘土を含まず、水分と養分の保持力が極端に悪いためである。またシラス台地上の火山灰畑は干魃(かんばつ)を受けやすく、水田は漏水性が大きい。水稲の栽培には適さず、やせた土地でも育つサツマイモ、豆類、アブラナ(ナタネ)などの畑作物の栽培が行われている。改良策としては粘土の客土や堆厩肥(たいきゅうひ)(牛糞(ぎゅうふん)、鶏糞、籾殻(もみがら)、米糠(こめぬか)などを積んで発酵させたもの)の施用が効果的である。
[小山雄生]
『横山勝三著『シラス学 九州南部の巨大火砕流堆積物』(2003・古今書院)』
シラス(仔魚)
しらす / 白子
イワシ類、アユ、ウナギ、アナゴなど孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)の変態末期から稚魚期の幼生の総称。中部地方以南の太平洋側のうち、相模(さがみ)湾、駿河(するが)湾、瀬戸内海、豊後(ぶんご)水道などがおもな産地である。体は細長くて頭が小さく、体表にはほとんど色素がなく、透明であるのが特徴。シラスの語源は、ゆでると体が白くなることに由来する。イワシのシラスは全長3センチメートル前後。沿岸に接する流れにのって岸辺に近づき、プランクトン性の甲殻類などを食べて成長する。パッチ網や地引網によって相当の量が漁獲され、生食またはしらす干し(ちりめんじゃこ)にして食用にする。市場に出回るものにはいろいろな種が混ざっていることが多いが、高級なものはカタクチイワシだけである。ウナギの大形の葉形(ようけい)幼生(レプトセファルス)は、著しい変態をしてシラスウナギとなる。変態終了の直前に岸に近づき、数センチメートルの大きさで川を遡上(そじょう)する。シラウオやシロウオのことをシラスとよぶ地方もある。
[落合 明・尼岡邦夫]
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シラス (しらす)
白砂または白州に由来する言葉で,白色,軽石質火山灰堆積物を総称していうが,一般には南九州に広く分布するそれをいう。鹿児島県の半分と宮崎県の20%は厚さ数m~100mのシラス層に覆われており,農業,治水,交通をはじめ人間の生活環境の重要な要素の一つとなっている。シラスの半分以上は今から2万2000年前に鹿児島湾奥部に起きた巨大噴火の際に生じた入戸火砕流堆積物によって占められ,その体積は300km3に達する。噴火により,大量の流紋岩質マグマ(SiO2=73~75%,Al2O3=13~15%,Na2O=3.5~3.7%,K2O=2.9~3.0%)が急激に噴出し,軽石や火山灰の流れとなって南九州全域に広がり堆積したものである。厚い堆積物は台地状の地形をつくりシラス台地と呼ばれる(笠野原,春山原など)。シラスのうち一部は溶結しているが,非溶結部もある。これらは風食,河食に弱く,深い谷や急崖という特有の地形をつくっている。これらシラス自体の特徴のほか,南九州は台風の進路にあたっており,土壌浸食や崖崩れなどの災害にみまわれることも少なくない。シラスの主体は管状,球状ないし不規則な形状の気泡を大量に含んだ火山ガラスの破片と同質の軽石塊から成り,少量の石英,斜長石,輝石の斑晶を含んでいる。透水性がきわめてよく,水田をつくるには適さないが,南九州の多くの地域はシラスの上を別の火山灰土壌が被覆し,肥沃な土壌を形成している場合が多い。シラスを加熱加工し,シラスバルーンとして断熱材,構造材などに使われる。
執筆者:荒牧 重雄
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シラス
南九州に広く分布し,主として火山源の物質からなる白色砂質堆積物の総称。白砂または白州に由来した地方的な俗語。厚さはところによって著しく異なるが,最大 150mに達し,鹿児島県の約半分と宮崎県の 20%にわたる広大な面積に広がる。シラスの構成物質は軽石流(→軽石),降下軽石およびそれらの 2次的堆積層で,ほかに凝灰質砂岩,火山礫凝灰岩,ケイ藻土質堆積岩などを含む。堆積の地質時代は新第三紀鮮新世から第四紀更新世(洪積世),完新世(沖積世)にまで及び,噴出源は姶良(あいら)カルデラ,阿多カルデラなど(→カルデラ)。シラス台地は河川に切り立った断崖で接しているため,台風などによる崖崩れでしばしば大きな被害をもたらす。シラスが直接地表に露出しているところや,河川によって再堆積しているところの耕地は,おおむね生産力がきわめて低い。粘土の客入や堆厩肥の施用を行なう必要がある。(→火山作用)
シラス
Silas; Silvanus
50年頃活躍した初代教会の預言者,伝道者,聖人。ローマ市民といわれる。『使徒行伝』によると,バルナバの代りにパウロの第2回伝道旅行に随行し,ガラテア,トロアス,ピリピ (パウロとともに入牢) ,テッサロニカ,コリントに伝道した。テッサロニカ人にあてたパウロの書簡や『コリント人への第2の手紙』1章 19でシルワノという名で登場する人とおそらく同一人。西方教会では7月 31日に,東方教会では7月 30日にシラスを記念する。
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シラス
語源は白砂または白洲といわれ,全体が白色軽石質の厚い地層に対して一般に使われ,また十和田の軽石流などもシラスと呼んでいるが,ふつうは鹿児島湾北部を中心として鹿児島・宮崎両県にまたがり,4712km2の分布面積をもつ軽石流堆積物をさす。更新世後期に姶良(あいら)カルデラ,阿多カルデラ(鹿児島湾の湾入部)形成時に熱雲として流下したもので,シラス台地を形成,厚さは最高150mに達する。火山灰,軽石,岩石片からなり,層理はみられない。灰白色で孔隙に富み,深い谷,切り立った岸という特有な景観を示す。表面は平らで畑作が行われているが,台風・集中豪雨時には崩壊が多発し,平時は地下水位が深いため水不足に悩まされ,土壌は酸性が強く,地力もふつうの土地の2分の1程度である。
→関連項目AT火山灰
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シラス
透明に近い状態の稚魚で,マイワシやアンチョビーなどをいう場合が多いが,ウナギなどについても用いる.
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世界大百科事典(旧版)内のシラスの言及
【大隅半島】より
…東側は太平洋に面し,西側は鹿児島湾を隔てて[薩摩半島]に対する。北西部に高隈山地,南部に[肝属(きもつき)山地],西部に1914年の噴火によって陸続きとなった[桜島]があるが,大部分は一般にシラスとよばれる透水性の大きい姶良(あいら)火山噴出物が,緩やかに傾斜して[笠野原]などのシラス台地を形成している。台地の所々に中生層や花コウ岩よりなる山地が散在し,南部の肝属山地の太平洋に臨む海岸は長い絶壁が連続する。…
【火山灰土壌】より
…北関東の[鹿沼土],今市土もそれぞれ特徴ある外観をもつ風化軽石層である。一方鹿児島の姶良(あいら)カルデラから噴出したとされる厚い軽石堆積物は〈[シラス]〉と呼ばれる。シラス台地はもろくて,しばしば大雨で崩れて白い崖を露出する。…
【特殊土壌】より
…シラス(南九州に分布する斜長石英粗面岩質の火山堆積物),ボラ(南九州に分布する軽石の俗称),コラ(鹿児島県薩摩半島南端に分布するやや固結した火山砂礫(されき)層),マサ(富士山周辺の火山砂礫層),アカホヤ,オンジ,イモゴと呼ばれる火山灰層などのように,特殊な火山噴出物および花コウ岩風化土,その他とくに侵食をうけやすい土壌をいう。九州,四国,中国を中心に分布するが,とくに南九州地方に広く分布する。…
※「シラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」