日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブラナ」の意味・わかりやすい解説
アブラナ
あぶらな / 油菜
アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草。一般にアブラナまたナタネ(菜種)とよばれるものは植物学的には在来ナタネBrassica rapa L. var. oleifera DC.(B. campestris L.)とセイヨウアブラナ(洋種ナタネ)B. napus L.の2種を含んでいる。しかし、一般にはチリメンハクサイに改良を加えてつくられた切り花用の「ナノハナ(菜の花)」なども含めて、アブラナ、ナタネ、ナノハナなどの名が混乱して用いられていることが多い。
在来ナタネは地中海沿岸から中央アジアの高原の原産で、日本へは古く中国より伝来した。葉は薄く、淡緑で軟らかい。春に高さ1.5メートルほどの茎の先に黄色の十字花をつける。花弁、萼(がく)はそれぞれ4枚、雌しべは1本、雄しべは6本で、うち2本が短く、他の4本が長い。花期後、円筒形で先に長い嘴(くちばし)のある莢(さや)ができる。内部は2室に分かれ、種子は直径2ミリメートルで赤褐色、このため赤種(あかだね)の呼び名もある。普通は秋に種子を播(ま)き、幼植物で越冬させ、翌春開花し、6月に成熟する。莢(さや)が裂開しないうちに刈り取り、乾燥後たたいて種子を収穫する。なお、日本では、明治時代以前は全国的に本種が栽培されていたが、その後セイヨウアブラナが導入され、現在ではそれに置きかえられて、ほとんど栽培がない。
セイヨウアブラナ、別名蕓苔(うんだい)は、アブラナ(在来ナタネ)とキャベツの類との自然交雑から生じたもので、起源地は北ヨーロッパから中央アジア高原地域。葉は濃緑色で在来ナタネよりやや厚く、表面にろう質をかぶる点も在来ナタネと異なる。秋に種子を播き、翌春、在来ナタネより約半月遅く、十字花をつける。花の色は在来ナタネよりやや緑色を帯びる。種子は直径1.5~2ミリメートルで黒褐色。このため黒種(くろだね)の呼称もある。導入されて以降、在来ナタネにとってかわったセイヨウアブラナは第二次世界大戦後しばらくまでは、全国各地に約25万ヘクタール栽培され、そのなかばは水田の裏作作物とされてきた。その後は安価な輸入品に太刀(たち)打ちできず、国内栽培は年々減って500ヘクタールほどになっていた。しかし2010年ごろからは作付面積は増加傾向にあり、2018年で1930ヘクタールとなっている。生産量も1999年には783トンまで減っていたが、作付面積が増加したため、2018年では3130トンとなっている。地域別では北海道が77%、青森県が14%と多い。最近はバイオマスエネルギーや家畜の飼料用としての栽培もある。
[星川清親 2020年11月13日]
利用
種子には38~45%の油を含むので、これを圧搾法で絞り、菜種油をとる。絞った油は黄褐色で独特のカラシ臭がある。これを酸性白土で精製したものが菜種白絞油で、リノール酸24%、オレイン酸14~32%、エルシン酸50%を含む半乾性油である。食用油として優れており、大豆油に次いで消費が多い。油を絞ったかすは、いわゆる油かすで、家畜の飼料および園芸用の肥料となる。
日本へは蔬菜(そさい)として渡来したアブラナは、戦国時代以降、油料作物として利用されるようになり、灯用、機械油、食用などに用いられてきたが、本格的に利用されるようになったのはセイヨウアブラナが導入された明治時代からで、おもに食用としてである。現在、世界的には栽培がしだいに増えており、主産国はカナダ、ヨーロッパ諸国、ブラジルなどである。カナダでは心臓障害などを引き起こすエルシン酸を含まず、グルコシアネート(甲状腺(せん)肥大物質)の含量も低いセイヨウアブラナ「キャノーラ」Canolaが育成されて、世界に広まった。
[星川清親 2020年11月13日]