ジベレリン(英語表記)gibberellin

翻訳|gibberellin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ジベレリン
gibberellin

ギベレリンともいい,植物ホルモンの一種。細胞分裂と伸長との作用をもつが,オーキシンなどの他の植物ホルモンとの協同作用,また対象部位によって種々の現れ方をする。たとえば 10ppm程度のジベレリン水溶液にオオムギやイネの芽生えを浸すと,その生長が著しく促進され,また胚乳中のα-アミラーゼやホスファターゼなどの加水分解酵素作用の増大がみられる。最初は,イネのバカナエ病菌 Gibberella fujikuroiが生産する植物生長促進物質に対してつけられた名称で,その後多くの植物にもこの種のホルモンの存在が知られ,その数はバカナエ病菌の生産以外のものも含めて少くとも 40種に達し,遊離もしくは結合型として存在する。農作物の増収や品質改良に利用され,種なしブドウの生産にも用いられる。デラウェア種の場合,開花2週間前と開花後7~10日の2回,それぞれ 100ppmの水溶液を果房につけると,前者は単為結果,後者は肥大促進に有効である。イチゴやウドの休眠打破などにも応用されている。人畜には毒性を示さない。

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百科事典マイペディアの解説

ジベレリン

植物ホルモンの一種。1926年イネの馬鹿苗病菌から発見され,ジベレリンA1,A2,A3ほか75種が知られる。細胞の伸長や発芽などを促進。光発芽種子を暗発芽させ,長日植物の限界日長を短縮し,低温で春化処理を受ける植物の低温要求性を低下させる等の作用をもつ。また単為結実の作用を利用して種なしブドウ作成に用いられる。
→関連項目矮化剤

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栄養・生化学辞典の解説

ジベレリン

 植物ホルモンの一つ.薮田らによりイネの馬鹿苗病の原因菌の生産する毒素として発見された.種なしブドウの生産などに使われている.

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世界大百科事典 第2版の解説

ジベレリン【gibberellin】

古くはドイツ語読みのギベレリンと呼ばれたこともある。植物ホルモンの一種で,広く植物界に分布し,植物のさまざまな生理現象の発現や制御に大きな役割を果たしているばかりでなく,植物化学調節剤としても利用されている物質である。 日本の湿潤な地方の稲作は,イネばか苗病という病気で大きな被害を受けていた。これはGibberella fujikuroi(Fusarium moniliformeと呼ばれることもある)という植物病原菌の感染によってひきおこされる病気で,罹病したイネは草丈が高く(徒長)なり,葉色も緑色が淡くなり,ひどい場合には枯死する。

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大辞林 第三版の解説

ジベレリン【gibberellin】

植物ホルモンの一。植物細胞の伸長促進などに関与し、農作物の増収や単為結実・品質の改良に利用される。ギベレリン。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ジベレリン
じべれりん
gibberellin

植物ホルモンの一種。ent-ジベレランあるいはent-9,15-クロジベレラン骨格をもつ炭素数19もしくは20の一群の有機化合物で、ジテルペンの一種である。自然界から単離された順にA番号をつけてGA1、GA2 のように略記される。現在までに130近いジベレリンが登録されている。多数あるジベレリンのうち実際にそれ自体でホルモンとして活性のあるものはGA1、GA3、GA4である。炭素数20のジベレリンの多くは、炭素数19のジベレリンの前駆体である。ジベレリンには、置換ヒドロキシ基と結合したグルコシルエーテル、あるいはカルボキシ基(カルボキシル基)と結合したグルコシルエステルとして存在するものもあり、これらは複合型ジベレリンとよばれる。[勝見允行]

発見の歴史

イネ苗に寄生して、徒長(黄緑化して、もやしのようにひょろ長く伸びる状態)をおこさせ、ついには枯死させてしまうカビのイネ馬鹿苗病(ばかなえびょう)Gibberella fujikuroi (Sawada) Wr.について研究していた黒沢栄一は、この病気の原因はカビが生産する物質によるものであることをつきとめた(1926)。その後、東京大学の藪田貞治郎(やぶたていじろう)(1888―1977)と住木諭介(すみきゆすけ)は、このカビが培養液中に分泌する徒長誘導物質をジベレリンと命名し(1935)、やがて結晶として単離することに成功した(1938)。第二次世界大戦後、住木諭介によって、日本におけるジベレリンの発見が世界に紹介されると、急速に研究が進展し、1956年には、カリフォルニア大学のフィニィB. O. Phinney(1917― )らによって、ジベレリンが高等植物にも存在する植物ホルモンであることが確かめられた。まもなく、各種のジベレリンが高等植物の組織から実際に単離された。ジベレリンの構造のうちGA3(ジベレリン酸)については1958年に最終的に決定された。この間に、ジベレリンは植物の成長、発生に対してさまざまな生理作用をもつことが明らかにされ、農業面においても盛んに利用されるようになった。[勝見允行]

生理作用

もっとも典型的な生理作用は、苗条の著しい伸長促進である。矮性(わいせい)植物のなかには、ジベレリン生合成に関して遺伝的異常があるため、背丈の正常成長にとって必要な、十分量のジベレリンを、それ自体で生産できずに矮性となっているものもある。このような矮性植物はジベレリンで処理すると、正常成長をすることができる。また、十分な量のジベレリンを生成できるが、ジベレリンの作用のメカニズムに異常があるものもやはり矮性を示す。しかし、このような矮性はジベレリンを与えても正常には回復できない。このように、ジベレリンは、植物の節間の長さを調節するホルモンといえる。
 温度条件等で誘導されるロゼット型植物の抽薹(ちゅうだい)(とう立ち)は、ジベレリンでも誘導できる。こうしたジベレリンによる茎の伸長促進は、細胞分裂と細胞伸長の両過程に関係している。ジベレリンは細胞周期を短縮することで細胞分裂の速度を早め、それによって細胞数の増加を促進できる。細胞伸長の促進は、細胞壁で合成されるセルロース繊維の配列方向を決める表層微小管の配列方向を調節することによって、セルロース繊維が細胞の長軸方向と直角になるように配列させて、細胞壁が長軸方向へ機械的に伸展しやすくすることによる。ジベレリンはこのほか、長日植物の開花促進、休眠種子や芽の発芽誘導、単為結実(被子植物が無種子の果実を生ずる現象)の誘導などの作用をさまざまな植物で示す。また、オオムギ、イネなどの穀物種子のアリューロン層(糊粉(こふん)層。オオムギやイネなどの種子は胚(はい)と胚乳とからなっているが、胚乳の外側の薄い細胞層をいう)では、ジベレリンによって、デンプン分解酵素であるα‐アミラーゼの合成が誘導される。これらの種子の発芽の際には、胚からジベレリンが供給される。
 ジベレリンはイソプレノイド(テルペン)のイソペンテニル二リン酸から四環構造のent-カウレン(炭素数20)を経て合成される。ent-カウレンはent-カウレン酸に酸化され、これから合成経路上最初のジベレリンであるGA12ができる。このあと、おもに二つの経路で変換されて、活性型のジベレリンになる。途中いくつかの分岐経路があり、これらは不活性型ジベレリンを生じる。主要経路の反応を触媒する酵素の遺伝子に異常があると、活性型のジベレリンが合成されず植物は矮性となる。また、ウニコナゾール、パクロブトラゾール、イナベンフィドなどのジベレリン生合成阻害剤を使って、さまざまな植物の人工矮性化が行われている。イネでは伸長抑制による倒伏の軽減、登熟の向上が得られる。[勝見允行]

農学分野での応用

ジベレリンは、果樹、野菜、花卉(かき)などに広く利用されており、セロリ、ミツバなどの生育促進、イチゴ、ナスの着果改善等の例がある。もっともよく知られているのは、デラウェアブドウの種なし化である。開花前期に花穂をジベレリンで処理すると種なし果ができ、そのあと、もう一度処理すると果粒が大きくなる。この方法は、マスカット、ベリーAなどの他のブドウ品種にも応用されている。[勝見允行]
『増田芳雄著『植物生理学』(1988・培風館) ▽倉石晋著『植物ホルモン』(1988・東京大学出版会) ▽勝見允行著『生命科学シリーズ 植物のホルモン』(1991・裳華房) ▽増田芳雄編著『絵とき 植物ホルモン入門』(1992・オーム社) ▽高橋信孝・増田芳雄編『植物ホルモンハンドブック』上(1994・培風館) ▽今関英雅・柴岡弘郎著『植物ホルモンと細胞の形』(1998・学会出版センター) ▽板倉聖宣編『自然界の発明発見物語』(1998・仮説社) ▽小柴共一・神谷勇治編『新しい植物ホルモンの科学』(2002・講談社)』

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世界大百科事典内のジベレリンの言及

【アブシジン酸】より

…セスキテルペン(炭素数15のテルペン)の一種で生体内ではメバロン酸から合成される。 しばしばジベレリンと拮抗的な働きをするが,ジベレリンもメバロン酸から合成されるので,細胞内に両者の合成速度の比を調節する機構が存在するものと思われ興味深い。 定量法としては,化学的方法と生物検定法がある。…

【植物生長調節剤】より

…これら薬剤により,農業における栽培植物の矮小化が可能になり,花卉などの園芸植物の矮化,芝草の生育抑制剤,果樹の矮化による果樹園作業の省力化,稲作におけるイネ草丈の調節による倒伏防止など,多面的な応用の展開が行われつつある。 また植物ホルモンの一つであるジベレリン(主として発酵法で大量に製造されるジベレリンA3(GA3)が使われる)は,ブドウとくにデラウェア種,マスカット・ベリーA種などの単為結果による種なし化に広く用いられるほか,その他のブドウやナシの果実肥大,園芸植物における開花促進などに用いられる。植物ホルモンの一つであるサイトカイニンの合成同族体,6‐(N‐ベンジル)アミノプリン(ベンジルアデニン,商品名ビーエー)は,ブドウの花ぶるい防止,尻上り防止にジベレリンと混合して使用される。…

【種なし果実(種無果実)】より

…現在ナスとペチュニア,トマトとナス,キュウリとカボチャなどの間に見いだされており,実用化が期待される。 種なしブドウは,生長ホルモンのジベレリンを使用して作り出される。どのブドウ品種にも可能な方法ではなく,もっともよく適用される品種はデラウェアである。…

【発生】より

…挿木の切穂にオーキシンのような生長調節物質を与えると,根の形成が促進されたり,ふつうは根をつくらないような挿木に根ができたりすることは園芸上よく知られている。また,カイネチンは芽の形成に有効であることが示され,そのほかジベレリンやショ糖のような物質も,組織に応じて特異な作用を示す。発生の調節には,これらの物質の絶対濃度よりは,むしろ相対的な濃度が重要であることが示唆されている。…

※「ジベレリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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