改訂新版 世界大百科事典 「ジャワ族」の意味・わかりやすい解説
ジャワ族 (ジャワぞく)
Javanese
インドネシア共和国を構成する約250の民族集団中最大のもので,ジャワ島中部・東部を本拠とし,東端部ではマドゥラ族と,北西海岸部ではスンダ族と混住する。正確な統計は得られないが,総数は6000万人ないしそれ以上と推計される(1982)。古くからジャワ島外にも進出し,また20世紀に入ってからは政府による島外移民政策が進められている。その結果,現在ではスマトラ島ランポン州の人口の過半を占め,国外でも南米のスリナムなどにジャワ人社会を形成している。使用言語はアウストロネシア語族インドネシア語派に属するジャワ語である。ジャワ族にとって第一に重要な生業は水稲耕作である。常夏の気候,豊富な雨量,灌漑が容易な多数の山麓扇状地,火山性の肥沃な土壌に恵まれ,古くから稲の二期作が一般的で,最近では三期作も珍しくない。17世紀には米の輸出地であったが,19世紀以来人口が激増して世界でも有数の人口過密地となり,食糧自給はやや難しい。農家1戸あたりの耕地所有・経営規模は平均5aにみたず,耕地をもたない者も多い。農村部でも農業専従者はむしろ少なく,きわめて零細な商業,手工業が多様な形態で発達し,また日雇労働で暮らす者も多い。多角的な兼業と零細性は都市・農村を問わず,ジャワ族世帯経済の一般的特徴である。
ジャワ族社会では結婚した子は親の家を出て新たな独立の核家族世帯をつくるのが一般的慣習であり,相続は男女を問わぬ全子均分である。またジャワ族の名は個人名のみで家族名(姓)がなく,旧宮廷貴族官吏層,伝統的富裕商人層の子孫を除けば,祖先の記憶や系図はもたない。したがって親族関係は個人中心的で超世代的集団を欠く。村落は集村形態をとり,隣人同士の地縁的結合が強いが,閉鎖的・排他的なものではない。人口の水平移動が活発であり,また各個人は村境をこえて広い人間関係をもつ。
ジャワ族の大多数はイスラム教徒である。1000年近い間インド的諸王朝のもとでヒンドゥー教,仏教を信仰していたジャワ族がイスラムに転じたのは,15~16世紀のことである。土着的・インド的な要素を保った自由で混交的な信仰が今日まで大勢を占め,コーラン,ハディース(ムハンマドの伝承)に忠実で厳格な正統主義的イスラムは少数派である。ジャワ的イスラム教徒にとって重要なのは,無数の神々や諸霊を供犠と呪文でなだめて良好な関係を保ち,平穏無事な日々を送ることである(スラマタン)。またジャワ族の宗教的世界観と倫理は,インド古代叙事詩をジャワ的に変容した影絵芝居ワヤンの神話的物語群によく表現されている。敬語法,エチケットの著しい発達に見られるように,外面の行動における優雅な形式,調和のとれた人間関係に大きな価値がおかれ,また内面において宇宙の根本力ないし神性との接触融合をめざす神秘主義への志向が強い。
執筆者:関本 照夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報