精選版 日本国語大辞典「常夏」の解説
とこ‐なつ【常夏】
[1] 〘名〙
① いつも夏であること。いつも夏のように暑いこと。〔文明本節用集(室町中)〕
※小説平家(1965‐67)〈花田清輝〉二「仏教が、インドのような常夏の国の産物である以上」
※古今(905‐914)夏・一六七「ちりをだにすへじとぞ思ふさきしよりいもとわがぬるとこ夏の花〈凡河内躬恒〉」
③ セキチクの園芸品種。茎は丈が低く下部は地表をはう。花は四季咲きで濃紅色であるが、品種によって赤、純白または絞りなど花色は変化に富む。観賞用に鉢植えにされる。
※私の浅草(1976)〈沢村貞子〉お富士さま「赤い可愛い花をつけた常夏、紫の桔梗」
④ 襲(かさね)の色目の名。なでしこがさね。なでしこ。
※栄花(1028‐92頃)歌合「とこなつのいだしうちぎ、ふたあゐのなほし」
⑤ 紋所の名。なでしこの花を図案化したもの。
[2] 「源氏物語」第二六帖の巻名。源氏三六歳の夏。玉鬘への思いがつのる一方の源氏が、玉鬘の結婚問題で悩むことを中心に、内大臣が引きとった近江君の話を配する。玉鬘十帖の第五。
[語誌](1)(一)②は、「顕注密勘‐四」に「にほひ久しければ常夏といへり」、「八雲御抄‐三」に「とこ夏は四時花とかけり。夏秋は歌によむ。春冬いまだよまず」とあるように、長く咲き続ける花であることによる。
(2)歌では、その名から夏の景物として詠まれ、「床」との関連で、恋のイメージを持ち、挙例の「古今集」歌のように「塵」や「寝る」を詠み込むことが多い。
(2)歌では、その名から夏の景物として詠まれ、「床」との関連で、恋のイメージを持ち、挙例の「古今集」歌のように「塵」や「寝る」を詠み込むことが多い。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報