ステンドグラス(英語表記)stained glass
vitrail[フランス]
Glasmalerei[ドイツ]

デジタル大辞泉 「ステンドグラス」の意味・読み・例文・類語

ステンド‐グラス(stained glass)

さまざまな着色ガラスを組み合わせて模様・画像などを表した板ガラス。また、その技法。教会堂の窓などに用いる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ステンドグラス」の意味・読み・例文・類語

ステンド‐グラス

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] stained glass ) 異なった色彩のガラスを目的に応じた形、大きさに切り、鉛で接合して絵画的あるいは装飾的表現としたもの。ゴシック建築の窓に多く使用。ガラス絵
    1. [初出の実例]「嵌硝子(ステインドグラス)の窓から射す青や赤や黄色の光線が」(出典:煤煙(1909)〈森田草平〉一四)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ステンドグラス」の意味・わかりやすい解説

ステンド・グラス
stained glass
vitrail[フランス]
Glasmalerei[ドイツ]

多彩色のガラスを種々の大きさに切り,それらを鉛の枠にはめ込み溶接したもの。絵ガラスともいう。鉛の枠が図柄の黒い輪郭線になり,装飾や宗教的主題が表現される。いわゆる窓枠にはめられたステンド・グラスの歴史は古く,その手法は,古くからガラスが製作されていた地中海沿岸のオリエント地方からきたものと推測されている。また,ポンペイ,ヘラクラネウム,アレジアストラスブールトリールなどで発掘された断片により,ヨーロッパでも1世紀以来ステンド・グラスが使用されていたことが知られている。この時代には,ガラス片は比較的小さくて厚く,ブロンズ(青銅),大理石,木などの縁にはめ込まれていた。文献によれば,5,6世紀以来,イタリアやフランスでステンド・グラスが採用されていたことが知られる。しかし,図柄の表現された現存する最古のものは,ドイツのロルシュ出土の〈聖人の頭部断片〉(9世紀)とされている。さらには,マクデブルク出土の頭部の断片(10~11世紀前半)やワイセンブルク(現,フランス領)出土の〈キリスト頭部〉(11世紀)などにより,ドイツでは古くからステンド・グラスの伝統があったことがわかる。

 小さな規模ではあるが,ステンド・グラスが〈聖なる書〉として,神の国たる教会堂の窓を積極的に飾りはじめたのは,12世紀のロマネスク時代においてである。ロマネスク教会堂の窓は通常なお小さく,円形や矩形の枠で仕切られ,ステンド・グラスの色彩は鮮明な青を地色とし,赤との対比に特徴を示す。12世紀のステンド・グラス芸術の中心地は,パリ郊外サン・ドニ修道院であった。修道院長シュジェールSugerのもとで1144年に完成された同修道院内陣では,はじめて壁面が大々的に窓に開放され,そこにステンド・グラスがはめられた。ここでは,神の属性である光をいかに神秘的に表現するかが意識されていた。

 サン・ドニ修道院で完成された様式は,シャルトル大聖堂西正面三連窓に伝播していく。ここでは,鮮やかな青ガラスが至上の輝きをみせている。西部フランスではル・マン大聖堂,ポアティエ大聖堂,アンジェ大聖堂,シャンパーニュ地方ではシャロン・シュル・マルヌ,サン・レミ・ド・ランス,ドイツではアウクスブルク,イギリスでは,ヨーク,カンタベリーなどに12世紀の作例を残す。これらは,図像的には同時代のロマネスク壁画や写本挿絵と類似を示している。12世紀のステンド・グラスの技法は,ベネディクト会修道士テオフィルスが書き残した《諸技芸大要Schedula diversarum artium》で知ることができる。

 13世紀ゴシック時代には,シャルトル大聖堂の工房の活動にもうかがえるように,ステンド・グラス芸術はその頂点に達した。ゴシック建築は,ロマネスク建築が壁面中心であったのに対し,構造体を骨組構造にし,窓はますます大きくなり,そこにステンド・グラスがはめられた。破壊をほとんどまぬがれたシャルトル大聖堂身廊,内陣のステンド・グラスは,13世紀前半の典型例で,より深い色調になった赤と青を主調とする色彩対比と,大まかなデッサンによるモニュメンタルな様式に特徴をみせる。また,構成においては,下層の窓は小さな場面(聖書伝や聖人伝)の表現にあてられ,上層の窓は孤立した大きな聖人像にあてられ,視覚的効果が考えられている。シャルトル大聖堂の様式は,ブールジュ大聖堂,サンス大聖堂,ルーアン大聖堂などに伝播した。パリでは,ノートル・ダム大聖堂,サント・シャペルなどに新しい流派が生まれ,13世紀中ごろには,クレルモン・フェランをはじめ全フランスに影響を与えていった。とくにサント・シャペル(1243-48)では,壁面はすべて15の窓に開放され,光の壁と化している。イギリスではカンタベリー大聖堂(〈トマス・ベケット伝〉)やリンカン大聖堂のステンド・グラスが,フランスの様式とのつながりを示す。ゲルマン諸国では,マールブルクのザンクト・エリーザベト教会などにフランスの様式の影響が見られるが,ストラスブール大聖堂ナウムブルク大聖堂では,装飾性に富んだドイツ独自の特徴が顕著である。

 1270年ころに,新しい傾向が現れる。すなわち,より多くの光を教会堂内に入れるため,色ガラスのほかに,白ガラスの上にグリザイユ(陰影画)で描かれた無彩色のガラスが増える(トロアのサンテュルバン教会)。さらに14世紀初頭には,〈ジョン・ダルジャン〉という技法の導入によりステンド・グラスは絵画化の傾向を強めていった。この技法は,銀の硫化物を使い,ガラスの表面に薄い黄色の膜を作り着色していく。これにより,ガラスの表面に図柄を描くことが可能になり,14世紀のステンド・グラスは,13世紀のモニュメンタルな様式を失った代りに,繊細優雅な表現を獲得した。とくに,天蓋などに遠近法の導入がなされ,絵画化への傾向は一段と強くなった。色ガラスは,ソーダの含有率が多く明るくなり,色彩も豊富になり華麗さを増していった。ルーアンのサントゥーアン教会,エブルー大聖堂,ウィーン大聖堂(東窓)などにその代表例がある。

 15世紀になって,ブールジュ大聖堂(〈受胎告知〉),ムーラン大聖堂などでは,さらに明るく鮮明な色ガラスになり,写実的傾向が強くなった。写実的傾向は,16世紀ルネサンスの到来とともにより強くなった。ボーベのルプランスLeprince家をはじめとするこの時代のステンド・グラス師は,イタリア・ルネサンスの様式を導入した。また北方では,デューラー,バルドゥング,H.ホルバイン(子)らの画家が,下図を提供している。フランスに現存するステンド・グラスの半数近くは16世紀の制作になり,16世紀はステンド・グラスの第2の黄金時代といえる。技法面では,黄色のグリザイユや彩色された透明なエマイユ(七宝)が,16世紀後半に伝播していった。ルーアンのサン・バンサン教会,パリのサン・ジェルマン・ローセロア教会,サンス大聖堂などに,この時代の作例が残る。

 17,18世紀には,ステンド・グラスは衰退を見る。当時の古典主義的精神は,中世芸術固有のものである彩色された平面的なステンド・グラス芸術に対立したからである。ステンド・グラスが復活するのは,ゴシック美術を再評価したロマン派が台頭した19世紀のことである。とくにイギリスでは,その復活は,装飾性を重視した19世紀末のラファエル前派の運動と一致していた。20世紀には,マティス,レジェ,G.ブラック,ルオー,さらにはシャガール(ランス大聖堂)などがステンド・グラスを手がけている。また,ステンド・グラスは新しい抽象的建築装飾としても採用されている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ステンドグラス」の意味・わかりやすい解説

ステンド・グラス

中世のキリスト教教会堂,特にゴシック聖堂の窓にはめられた装飾ガラス。金属酸化物の顔料で着色し,グリザイユ(黒褐色の釉)で輪郭線や陰影を施して焼き上げたガラス片を断面がI字形の鉛縁で接合したもの。聖書や聖人の伝記に取材した絵が描かれ,聖堂内部を壮麗にいろどった。ステンド・グラスの技法は,カロリング朝の色ガラスに原形が見られ,12世紀初めころにほぼ完成。壮大な窓をもつゴシック建築が盛んになり始めた12世紀中ごろから全盛期を迎え,仏,英,独で特に愛好された。→ゴシック美術
→関連項目ガラス絵シャルトル大聖堂ルオーロマネスク美術

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ステンドグラス」の解説

ステンドグラス
stained glass

絵ガラス。主として12世紀以後ゴシック教会堂の窓に愛用された。切断した種々の色ガラスを鉛の細枠で組み立て,細部の線を焼きつけて,人物や画像を表現する。13世紀後半から技法の進展によって写実性が増した。フランスのゴシック芸術固有の絵画的表現ともいえる。シャルトル大聖堂(12世紀半ば),パリのサント・シャペル(13世紀半ば)などの作例が有名。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ステンドグラス」の解説

ステンドグラス
stained glass

色ガラスの断片を鉛のわくで結合した中世のガラス絵
ロマネスク様式からゴシック様式への寺院建築の発展とともに盛行。題材を多く『聖書』に求め,高大な窓の全空間を五色の光で彩り,天に向かう信仰の理想を示した。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

家とインテリアの用語がわかる辞典 「ステンドグラス」の解説

ステンドグラス【stained glass】

さまざまな色ガラス片を鉛や黄銅などの細い枠に接合して、文様や図像を表したもの。また、その技法。教会堂建築に広く用いた。吹き抜けの窓のほか、室内装飾や照明器具などに用いる。◇「ステンド」は「色をつけた」という意。

出典 講談社家とインテリアの用語がわかる辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のステンドグラスの言及

【光】より

… これに対し中世美術においては,光はきわめて重要な要素ではあるものの,そのあり方は古代および近世と著しく異なる。中世美術の中枢を占める教会堂建築では,古代に比べて内部空間が格段の重要性を得たのに伴い,金地とガラス片の輝かしいモザイク,戸外の白色光を色とりどりの光に変えるステンド・グラスが,聖性を象徴する超現実的な光でこれを満たすようになった。一方,中世絵画には,古代と近世の写実的光を基準にすれば,光は存在せず色彩あるのみということになるが,中世には独自の光があることに注目しなければならない。…

※「ステンドグラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」