翻訳|cementite
鉄Feと炭素Cの化合物の一つで,組成はFe3Cに相当する。結晶構造は斜方晶系で,合金鋼の中で生じる場合には鉄原子の一部がマンガン原子などの他の原子と置き換わることもある。金属光沢をもち,硬くてもろいが,鉄鋼材料の強化に利用される各種の炭化物の中では最も軟らかい。約210℃に磁気転移点(キュリー温度)を有し,室温では強磁性である。炭素鋼や低合金鋼を高温のオーステナイト状態からゆっくり冷却したり,焼入れ後に焼き戻すと生じる。生成条件により板状,針状,球状などの形態をとるが,オーステナイト状態から徐冷したときに生じる板状のセメンタイトとフェライトからなる層状組織はパーライトと呼ばれる。炭素量約20%以上の鋳鋼,鋳鉄では,高温でオーステナイトとともにレーデブライト共晶を生成する。またセメンタイトは分解すると鉄と黒鉛になり,この黒鉛の形状が鋳鉄の性質に影響を与える。のこぎり,のみ,かんななどの材料に用いられる炭素工具鋼などでは,熱処理によって球状のセメンタイトを鋼中に細かく分散させて,材料に硬さとねばさをもたせている。
→鋼(はがね)
執筆者:柴田 浩司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鉄と炭素との化合物(Fe3C)はセメントのように硬いので、セメンタイトとよばれてきた。斜方晶系に属する結晶であり、融点は1250℃、比重7.4、ビッカース硬さ約1300。210℃以下で強磁性を示す。
セメンタイトは鉄鋼材料の主要な構成相であり、その形態と含有量を適宜に制御することによって鉄鋼材料の性能が著しく改善される。たとえばピアノ線は、炭素濃度が0.8%の鋼を線引き加工したもので、繊維状のセメンタイト結晶が鉄結晶の中に細かく配列している。このピアノ線は強度がきわめて高いので、ワイヤロープなどに使用されている。
セメンタイトの形態を粒状にすると、鋼の靭(じん)性が向上して、折れにくくなる。橋や車両などに使用されている鋼は、直径約0.3マイクロメートルの微細なセメンタイト粒子を鉄結晶中に分散させたものである。
また白鋳鉄(はくちゅうてつ)は、融鉄に多量の炭素を溶かし、鋳型(いがた)に流し込んで凝固させたもので、全体の約50%がセメンタイトであり、高硬度部品の材料として使用されている。この白鋳鉄を高温で加熱すると、セメンタイトは不安定な化合物なので黒鉛と鉄とに分解する。この特性を利用して、鋳造の際に微量の球状化剤を加え、約30マイクロメートル直径の黒鉛を鉄結晶中に分散させたものが球状黒鉛鋳鉄であり、通常の鋳鉄よりもはるかに優れた靭性を示す。鉄の炭化物はセメンタイトだけではなく、六方晶系のイプシロン炭化物(Fe2C)なども知られている。
[西沢泰二]
鉄炭化物の一種.化学組成はFe3C.格子は斜方晶系,空間群Pnma,格子定数は常温でa = 0.50896,b = 0.67443,c = 0.45248 nm,単位格子中に4個の基本組成を含む.平均線膨張係数は常温で5.87×10-6 deg-1.標準生成エネルギーは常温で18.9 kJ mol-1.常温では強磁性を示し,キュリー点(A0)は215 ℃,磁気能率は1.75μB である.ヤング率は20.1 kg mm-2,ポアソン比0.361,ビッカース硬さは1200~1300である.純粋の鉄-炭素二元系では準安定相であるが,普通,炭素鋼,合金鋼,および鋳鉄中の代表的な組織成分で,その形状,分布は鋼材の性質を大きく左右する.たとえば,パーライトはセメンタイトとフェライトの層状組織である.合金鋼中に現れるFe3C中の鉄の一部を合金元素が置換したFe3Cと同形の炭化物は,セメンタイトと総称する.[別用語参照]鉄炭化物
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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