タカラガイ(読み)たからがい(英語表記)cowry

改訂新版 世界大百科事典 「タカラガイ」の意味・わかりやすい解説

タカラガイ (宝貝)
cowrie
cowry

タカラガイ科Cypraeidaeの巻貝の総称。世界に約200種,日本に約100種を産する。多くは熱帯海域の潮間帯より浅海底に多いが,数百mの深海底にすむ種類もある。幼貝の殻はふつうの巻貝のように,殻頂のほうに螺層(らそう)があり,巻きは明らかである。しかし体層は大きく,殻高の大部分を占める。殻は薄く,殻口は広い,ふたを欠く。成貝になると殻口の外唇が内方へ曲がり殻口を狭め,内唇も厚くなって両唇の縁が刻まれる。また殻を包む外套(がいとう)膜から殻表に滑層が分泌され幼貝とは異なる模様になり,平滑で光沢がある。また小さい螺塔も滑層で覆われて見えなくなる。岩礁などに付着しているカイメンや小さい藻類などを食べる。

 ホシダカラガイ(星宝貝)Cypraea tigris英名tiger cowry)はもっともふつうな大型のタカラガイ。殻高11cm,左右の径7cm,背腹の径5.5cmに達するが,ハワイ産のものはとくに大きく,高さ15cmを超える個体がある。殻は卵形で背面には大小の丸い斑があり,左右の外套膜の接するところは朱色の線になる。腹面は白色。紀伊半島以南~熱帯太平洋,インド洋に分布し,潮間帯下の岩礁にすむ。

 ハチジョウダカラガイ(八丈宝貝)Mauritia mauritianaは殻高8.5cm,左右の径6cm,背腹の径4.5cm。殻は黒褐色で背面に丸い黄白斑があり,卵形で腹面は平ら。紀伊半島以南~熱帯太平洋,インド洋の潮間帯下の岩礁にすむ。コヤスガイ子安貝)ともいい,これを握っていると安産するといわれる。またウマノクボともいうが,これはウマの雌の性器の意である。

 キイロダカラガイ(黄色宝貝)Monetaria monetaは殻高3cm,左右の径2.2cm,背腹の径1.4cm。丸みあるひし形で前方へ狭くなる。幼貝(亜成殻)のときは白色で背面に3帯の青黒色の横帯があり,これが武道の面を思わせるのでメンガタダカラガイの別名があり,またこの模様からの象形文字ができ,これから〈寶〉の字になった。成貝では殻は黄色になる。この種は中国の殷時代には貨幣として用いられたが,アフリカ,インドなどでも貨幣とされ,ニューギニアの山地族では最近まで通用していた。英名もmoney cowrieといい,学名もそれを意味する。

 そのほか紅色のナンヨウダカラガイCallistocypraea aurantium(英名golden cowry)はフィジー諸島では酋長のみが着けることが許され,その地位を誇示する。またシンセイダカラガイ,オオサマダカラガイは世界的な珍貝で高価に売買される。
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タカラガイは乳白色の色つやと女性の性器に似た形から,生殖,安産,豊熟を象徴するものとして珍重された。世界各地の原始,古代の遺跡からは,呪符装身具として用いられたタカラガイが出土している。古代中国で貨幣として用いられたことは,〈貨,買,売,寳〉などにしたがう文字からも想定されている。殷代の墓では貝をくし刺しにして人の腰につり下げた状態で発見される場合が多く,西周時代の金文に〈貝五朋を錫(たま)う〉などと記載されていることと一致する。殷代以降,戦国時代まで,タカラガイの実物のほか貝殻,骨角,石,土,銅などで模倣したものが多数つくられ,なかにはタカラガイの表面を金箔で包んだものもある。戦国時代の楚で通用した蟻鼻銭は貝貨の最終的なものとされている。また戦国末から後漢にかけて,雲南省一帯ではタカラガイ(子安貝)を貯蔵する特異な青銅製貯貝器(ちよばいき)が作られ,石寨山古墓などから発見されている。日本の縄文時代の遺跡からも装身具に用いたタカラガイが発見されており,弥生時代の山口県土井ヶ浜遺跡からは,他の貝殻で模倣したものが発見されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タカラガイ」の意味・わかりやすい解説

タカラガイ
たからがい / 宝貝
cowry

軟体動物門腹足綱タカラガイ科に属する巻き貝の総称。この科Cypraeidaeの仲間は世界に約200種を産し、そのうち日本には約75種が知られている。おもに熱帯地方の浅海に多く、300メートルぐらいの陸棚帯にすむ種もある。幼貝では殻が薄く、螺塔(らとう)があり、殻口も広く、殻口両側の刻みもない。成長するにつれて殻口の外唇は内方へ巻き込んで殻口を狭め、内外唇に刻みができる。また、殻を包む外套(がいとう)膜は殻表に幾重にも滑層を分泌して、殻は年齢とともに厚くなり、幼貝とは異なった模様を呈し、表面の光沢が強い。螺塔は滑層の下に隠れて見えなくなる。

 タカラガイの貝殻は古来呪術(じゅじゅつ)的な価値と経済的価値を備え、アフリカやインドシナ半島では近年まで貨幣としても用いられた。コンゴ民主共和国(旧、ザイール)のキンシャサ奥地のクバ人の例では、1850年ごろはニワトリ1羽がタカラガイ10個、女の奴隷は1000個と交換された。しかし100年後には、ポルトガル人が大量にタカラガイを持ち込んで、流通量が増したため、貝の価値が下落してニワトリ1羽が400個に相当したといわれる。日本ではハチジョウダカラガイなどはコヤスガイ(子安貝)といわれ、安産の守りとする地方がある。また、ナンヨウダカラガイは、フィジー諸島では首長(しゅちょう)だけが飾りに用いる。シンセイダカラガイ、オウサマダカラガイなどは世界的な珍種で、テラマチダカラガイ、ニッポンダカラガイ、オトメダカラガイ、クロユリダカラガイは日本での珍種であり、高価で売買される。

[奥谷喬司]

民俗

『竹取物語』で、かぐや姫が求婚者の1人に、ツバメの腹にもつこの貝を所望するのはよく知られている。子安貝ともいうので、安産や育児に伴う呪物(じゅぶつ)とされ、また蔵骨器(ぞうこつき)に入っていた例も鹿児島県伊佐(いさ)市など数例あることから、生命力の再生を願う呪具としての観念もあったらしい。柳田国男(やなぎたくにお)は『海上の道』(1961)でこの貝の重要性を指摘しているが、アジア、アフリカ、アメリカの先住民族は先史時代からこの貝殻を貝貨として用い、ニューギニアのモニ人は最近まで貨幣として使用していたという。

[矢野憲一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タカラガイ」の意味・わかりやすい解説

タカラガイ
Cypraeidae; cowrie; cowry

軟体動物門腹足綱タカラガイ科の巻貝の総称。幼貝では,殻口は広く,外唇は薄くて刻みがなく,小さい螺塔をもつ。成長すると,外唇は殻口内のほうへ曲って殻口をせばめ,また殻表を左右から包む外套膜は滑層を分泌して厚くなり,螺層は滑層に隠れて見えなくなる。殻表には光沢のある美しい各種特徴のある模様ができる。世界に約 200種,そのうち日本に約 80種が知られる。おもに太平洋,インド洋の熱帯海域に分布し,浅海に多くの種が生息するが,数百mの深海底にすむ種もある。本科には,古くから貨幣として使われてきたキイロダカラ,安産の守り神とされたハチジョウダカラ,フィジーでは首長がその地位を誇示するのに用いたナンヨウダカラなどがある。殻が美しいので収集家も多く,シンセイダカラ,オウサマダカラは世界的稀種とされており,一方日本産のオトメダカラ,ニッポンダカラ,テラマチダカラなどもその数が少く,高価で売買されている。

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世界大百科事典(旧版)内のタカラガイの言及

【貝】より

…また管状のビーズをつくり,祭礼の衣装につけた。イタリアで発達したカメオも装身具として有名であるが,これはマンボウガイ類やタカラガイ類の貝殻の色の層による違いを巧みに彫り分けたものである。 真珠層のよく発達したヤコウガイ(ヤクガイ)やアワビは,螺鈿細工の材料になった。…

【コヤスガイ(子安貝)】より

…タカラガイ類の別名であるが,とくに大型のハチジョウダカラガイMauritia mauritiana(イラスト)を指すことが多い。タカラガイ類は形が卵形で背面は丸く膨らみ,美しい模様があり,腹面は殻の口が狭く細くなり,両側の縁に歯のような刻みがある。…

※「タカラガイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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