たたき

改訂新版 世界大百科事典 「たたき」の意味・わかりやすい解説

たたき

日本料理の名。カツオのたたきとアジのたたきがよく知られている。前者は,節におろした皮つきのカツオを火であぶって冷水で冷やし,厚めの刺身につくるもので,土佐名物の皿鉢(さわち)料理を代表するものになっている。皿に盛った刺身に,おろしたダイコンショウガ,刻みネギなどをのせて包丁の腹でたたくことがあり,そのための名などとされる。後者はふつう細作りにしたアジの刺身をいい,〈たたきなます〉からの変化だとされる。その〈たたきなます〉は,漁夫がとったばかりの魚を包丁でたたき,みそをまぜて食べるものだという。しかし,こうしたカツオやアジのたたきは近世までの文献には見ることができない。ただし,全然別物のカツオのたたきというものがあった。《本朝食鑑》(1697),《和漢三才図会》(1712)その他に見られるもので,《和漢三才図会》によれば,それはカツオの肉の切れ端や小骨をたたいてつけこむ塩辛であった。そして,室町期にはこうした塩辛の〈たたき〉が行われていたようで,《新撰類従往来》には〈鮓(すし),扣(たたき),醢(なつしもの)〉と,魚の発酵食品の中に〈たたき〉の名を見ることができる。また,現在のカツオのたたきは,江戸時代前期には〈火焼膾(なます)〉〈火当(ひあて)膾〉などと呼ばれていた。
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タタキ (たたき)

三味線音楽に用いられる旋律型の名称。義太夫,長唄,常磐津,富本,新内,一中,宮薗節など,広い範囲にわたって使用されている。悲しい歌詞の部分に節付けされたものが多い。語源的には,空也上人鉢叩(はちたたき)からとするものと,万治・寛文年間(1658-73)ころ京都に住んでいた与二郎という男が門付(かどづけ)芸として手をたたきながら祝詞を唱えたことから,こうした芸を〈たたき〉と呼んだというものと2説ある。現在は後者の転用されたものと考えられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「たたき」の意味・わかりやすい解説

たたき(料理)
たたき

魚を材料とし、包丁でたたいたものを「たたき」というが、これは2種類に分類できる。その一つ土佐風カツオのたたきは、カツオを三枚におろし、皮付きのまま、藁(わら)、茅(かや)などを燃やして炎をカツオの両面に当てる。皮のついている面は少々焦げる程度に、肉の面は白くなる程度に加熱する。炎を当てたら、まな板に移し、ぬれたふきんをかけて冷ました後、身に塩少々をふり、酢を塗った包丁で軽くたたくと、しまって味がよくなる。刺身につくり、薬味にネギ、ダイコン、ニンニクなどを添える。もう1種のたたきは、小アジ、イワシなどの魚を下ごしらえして、包丁の刃でたたいて細かくし、ネギのみじん切りを加えたものをいう。神奈川県の湘南(しょうなん)海岸の名物であり、そのほかの地方にもみられる。

多田鉄之助



たたき(三和土)
たたき

たたき土(つち)(叩き土、敲き土、三和土(たたき))で仕上げた土間。たたき土は、花崗(かこう)岩、安山岩などの風化した可溶性ケイ酸に富む土で、消石灰と水を加えて練ると硬化する性質をもつ。本来たたきとは、このたたき土に約倍量の石灰を混ぜ、水や灰汁(あく)で練ったものを三寸(約9センチメートル)厚ぐらいに土間に塗り、たたき固めたもののこと。「漆食叩(しっくいたた)き」ともいう。今日では、たたき土はほとんどセメントモルタルかコンクリートにかわっている。

 また、石の表面をたたいて細かな跡をつける仕上げ方や、石を磨く場合の基礎工程、あるいは、コンクリートを打ち込む際、柱や壁の型枠の外から作業員が木槌(きづち)でたたく作業をさすこともある。

[中村 仁]

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百科事典マイペディア 「たたき」の意味・わかりやすい解説

たたき

日本料理の調理法の一種,またその料理。材料を包丁や手でたたき,砕いたり,つぶしたりして調味料などの味をしみ込ませたもの。野菜ではたたきゴボウ,たたき菜が知られ,口当りよく材料のかおりが強くなる。アジ,イワシなど小魚のたたきは小骨のついたまま包丁でたたき切り,ショウガ,シソなどを加える。細作りにしたアジの刺身をいうこともある。酢みそであえるたたき膾(なます)もある。土佐の郷土料理として知られるカツオのたたきは,強火で皮に焦げめを付けてから引き作りとし,ニンニク,ネギ,ショウガ,ぽん酢などをかけ,包丁の背などで軽くたたいて味をしみ込ませる。
→関連項目刺身

たたき(三和土)【たたき】

赤土に適量の石灰,苦汁(にがり)を加えてよく練り,6〜9cmの厚さに敷きならしたたき固めた床仕上げ。耐久力は低いが茶室や農家の土間に使用される。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「たたき」の意味・わかりやすい解説

タタキ

(1) 三味線の奏法の一種。撥 (ばち) を胴皮に当るまで強く,たたくように弾くこと。 (2) 義太夫節の節章の一つ。門付芸 (かどづけげい) である鉢たたき (→空也念仏 ) を取入れたもの。別離の場面などに用いられ,高く哀調を帯びた旋律である。関連する曲節に,中タタキ,下タタキ,ハルタタキ,中タタキカカリなどがある。 (3) 太夫の稽古で,三味線を伴わず扇拍子や手で間や拍子・手数を指示して行う方法。

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世界大百科事典(旧版)内のたたきの言及

【紙型】より

…通常,紙型用紙といわれる材料を組版の上にのせて圧力を加えて作る。湿式紙型(ウェットマットwet mat)と乾式紙型(ドライマットdry mat)とがあり,前者は乾燥しないように保存された紙型用紙を活版組版の上にのせ剛毛の打ち刷毛(はけ)でたたいて作るので〈たたき〉とも呼ばれる。現在,乾式紙型が多用される。…

【三味線】より

…音量は小さい。(2)タタキ 撥先を撥皮にたたきつける奏法。打楽器的な効果がある。…

【塩辛】より

…イカはふつう細切りの肉と内臓に塩を加えてつくるが,墨を加える場合もあり,これは黒作りと呼ぶ。カツオは肉と内臓でつくるものと内臓だけのものとがあり,かつては前者を〈カツオのたたき〉,後者は酒盗(しゆとう)と呼ばれた。〈たたき〉というのは,肉も内臓もいっしょに包丁でたたいて塩辛にしたためである。…

※「たたき」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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