スペイン出身のシュルレアリスムの代表的画家。バルセロナ近郊のフィゲラスで5月11日に生まれ、同地とマドリードの美術学校で学んだ。少年期から卓越した写実的描写力と異様な幻覚的資質を備えた早熟児で、12歳で印象派風の点描で描き、1920年には未来派、1923年から1925年まではデ・キリコの形而上(けいじじょう)絵画の感化を受けた。1928年にパリに出てシュルレアリスムの運動に参加し、翌1929年に最初の個展を開いて、精神分析学者フロイトの影響下に、夢や幻覚による内面の無意識世界への探求を目ざした。その絵画には、『記憶の固執』(1931)にみられる柔らかな時計や腸詰めに似たまろやかな人体といった柔軟で溶解したもの、松葉杖(まつばづえ)、だまし絵(トロンプ・ルイユ)風の錯視に基づく多重像などへの特異な幻覚的固執がみられる。常識的な外界の秩序を転覆して幻覚によって意外な再解釈の光をあてる手法をダリ自身は「偏執狂的・批判的(パラノイアック・クリティック)」方法と名づけ、哲学用語によって自発的妄想の体系化を試みたが、技術的には絵画の具体性を執拗(しつよう)に要求し、非合理な内的宇宙を「想像世界の手作りの色彩写真」(ダリ)として精緻(せいち)で克明な描写によって再現する。1930年代後半からはシュルレアリスムの運動を離れて、古典主義への傾斜を深め、1940年にはアメリカに移住した。第二次世界大戦後は数度のイタリア旅行でルネサンス絵画の影響を受け、カトリシズムに接近して、現代物理学の原子体系とキリスト教的イコンが混交する神秘主義的ビジョンをアカデミックな技法で展開した。また、ダリ自身も露出狂的な奇行で絶えず話題を提供し、ルイス・ブニュエル監督と前衛映画『アンダルシアの犬』(1928)、『黄金時代』(1930)を合作。ヒッチコックの『白い恐怖』(1945)に協力したほか、版画、宝石デザインも手がけた。1989年1月23日生地フィゲラスで没した。
[石崎浩一郎]
『ダリ著、飯島耕一訳『ダリとダリ』(1966・二見書房)』▽『ダリ著、東野芳明訳『天才の日記』(1971・二見書房)』▽『ダリ著、足立康訳、滝口修造監修『わが秘められた生涯』(1981・新潮社)』
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スペインの画家。はじめはシュルレアリスムの一員として活躍したが,のちに自己宣伝癖と奇行が嫌われて運動から離れた。カタルニャのフィゲラスに生まれる。同地方の広漠とした風景は後年の画面に投影されている。マドリード美術学校で学び,1925年バルセロナで最初の個展を開く。29年パリで個展を開いて以来シュルレアリスムに参加。フロイトの精神分析理論を絵画にとりいれ,トロンプ・ルイユ(だまし絵)風の細密描写によって異常なイメージをあらわし,潜在的な欲望をあばきだすのが特徴。みずから〈妄想症的=批判的(パラノイアック・クリティック)活動〉と称して,幻覚を生じる精神錯乱的現象を冷静にとらえ,同一のものが多様に見えるようなイメージを精密に描く。ダリにとって絵画とは,〈一般的には具体的な非合理性と想像される世界を色彩を使って手がきした写真〉ということになる。絵画のほかにも一連の〈象徴機能のオブジェ〉や版画,宝石デザインなどがあり,美術学校時代の友人L.ブニュエル監督の映画《アンダルシアの犬》(1928)と《黄金時代》(1930)では脚本を担当。《非合理の征服》(1935)や《わが秘められた生涯》(1961)など著書も多い。代表作に《記憶の固執》(1931),《内乱の予感》(1936)などがある。50年に〈神秘宣言〉を発表してカトリックに改宗し,話題をまいた。
執筆者:岡田 隆彦
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1904~89
スペインの画家。キリコや立体主義の影響を受け,1928年パリに移ってピカソに近づき,幻覚的な画風をもって超現実主義の指導者となった。40~49年アメリカで映画などでも活躍した。
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…1928年製作。ともにスペイン生れのL.ブニュエルとS.ダリの合作で,ガルシア・ロルカらとともにマドリードの若い詩人・芸術家のグループに属していた2人が,お互いにみた〈もっとも狂気じみた〉夢の数々を脈絡なく語り合って,それをもとに1週間足らずでシナリオを書き上げ,〈徹底的にシュルレアリスムの中に入って〉(ブニュエル)作った〈自動記述〉的な映画。2巻(サイレント・スピードで24分,トーキー・スピードによるサウンド版17分)。…
…1930年製作のフランス映画。《アンダルシアの犬》(1929)とともにダリとブニュエルが共同でつくった画期的なアバンギャルド映画とみなされている作品で,クレジットタイトルにもダリの名はあるものの,実は〈ダリぬきのブニュエル映画〉である。フランスのもっとも初期のトーキーの1本。…
…ロシア,オランダの構成主義の,幾何学的構成物も見のがせない。シュルレアリスムのオブジェの導火線は,ジャコメッティが極度に不安定な,しばしば動く形態で,性的な欲望や不安を象徴したことにあり,それに触発されたダリは物体の日常的効用を最低限に制限して,詩の喚喩や隠喩のように無意識を細密に具象化する,〈象徴機能のオブジェ〉を提唱した。このような物体観は,迫真的に描かれた物体が現実にはありえない関係に配置されるダリ自身の絵画を含めて,映像のポエジーと神秘を著しく増幅させた。…
※「だり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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