ビオロンチェロの略称で、リュート属擦弦楽器。4弦の弓奏楽器でセロともいう。バイオリンと同族の弦楽器で、このなかで音域はもっとも広く、男性的で深くつやのある音色をもち、独奏・合奏ともにバイオリンに次いで活用される。
16世紀初めにビオローネから発展したと推定され、18世紀まで名称、弦数、調弦法にさまざまなものがみられた。現在のような形は、ストラディバリ製作のものが模範となっている。
構造は他のバイオリン族とほぼ同じであるが、長さはバイオリンの約2倍、厚さは約3倍ある。下部に支えのためのエンド・ピン(19世紀末に考案)をもつ。弦は従来ガットやガットに銅線を巻いたものを用いていたが、近年ではスチール製のものが普及している。
奏者は椅子(いす)に腰掛け、エンド・ピンと両足、みぞおちで楽器を支え、弓を水平に動かして弦をこする。音域はC2からE6で、第1弦(最高音弦)からA3―D3―G2―C2に調弦する。運指は楽器の大きさの関係で、半音が比較的容易にとれ、また親指も使えるため、バイオリンでは不可能な音型や高いポジションが可能である。また弦が長く、張力も大きいので、ピッチカートやハーモニクスの余韻が長く、ポルタメントも効果的となっている。
名器としては現存する35のストラディバリがとくに有名で、なかでも「デュポール」(1711)は名器の誉れが高い。
[横原千史]
最古の独奏曲はイタリアのD・ガブリエリDomenico Gabrieli(1659―1690)の『リチェルカーレ』(1689刊)であるが、当時はほとんど通奏低音楽器として用いられた。18世紀中期、イタリアのフランチシェッロFranciscelloが親指を使う奏法を考案し、高音域が拡大され、ビバルディ、ボッケリーニは協奏曲、五重奏曲で、独奏の表現力を開拓した。J・S・バッハの6曲の無伴奏チェロ組曲(1720ころ)では、チェロ表現の一つの極致が示される。そしてハイドンは協奏曲のほか、弦楽四重奏曲でチェロの位置を堅固にした。
19世紀初頭、フランスのJ・L・デュポールとドイツのB・ロンベルクが運指・運弓ともに系統的なメソードをつくり、名技的演奏が作曲家に影響を及ぼす。そのもとに、ベートーベンは5曲のチェロ・ソナタなどをつくり、さらに弦楽四重奏曲、管弦楽のなかでチェロの表現を飛躍的に拡大した。これらの作品の受容とともにチェロ表現も受け継がれてゆき、シューベルトも五重奏曲で独奏的に用いている。ロマン派のチェロ協奏曲ではシューマン、ドボルザーク、ラロ、サン・サーンスのものが有名であり、チェロ・ソナタではブラームス、フォーレ、ドビュッシーが傑作とされる。演奏家では、ロンベルクの弟子ドッツァウアーJ. J. F. Dotzauer(1783―1860)、グリュッツマッハーF. W. L. Grützmacher(1832―1903)、ベルギーのセルベA. F. Servais(1807―1866)、イタリアのピアッティA. Piatti(1822―1901)、オーストリアのポッパーD. Popper(1843―1913)、ドイツのクレンゲルJ. Klengel(1859―1933)らが、バイオリンと同程度まで技巧を高め、メソードも残している。
19世紀末のエンド・ピン考案後は、カザルスがそれを最大限利用して現代奏法の基礎を築いた。彼はまたバッハを復活させ、ハイドン、シューマンなどを盛んに取り上げ、チェロのレパートリーを大きく拡大させた。現代奏法はフォイアマン、ピエール・フルニエ、ロストロポービッチらビルティオーゾを生み出し、その協力のもとにコダーイ、ショスタコビチ、ブリテンらが作曲している。
[横原千史]
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バイオリン属の弦楽器。ビオロンチェロの略称。大きさは全長においてはバイオリンの2倍,胴体の厚みは4倍ある。演奏者は椅子に腰かけ,楽器の下部に取りつけられ長さを調節できる棒(エンドピン。多くは金属製)を床に突き立てるようにし,両ひざで挟んで演奏する。弓は右手の指全部で持ち,弦に対して直角に置き,運弓の際は常に弓を水平に保つ。弦は4本であり,下から〈は,と,ニ,イ〉に調弦する。弦は他のバイオリン属同様羊の腸から作ったガット弦(羊腸弦)を用いていたが,現在はじょうぶなスチール弦の方が広く普及している。演奏に用いる譜表は低音部記号,テノール記号,高音部記号の3種類である。また高いポジションを弾くとき,親指を指板の上にあげることがあり,親指の記号()を用いる。音域はたいへん広く,ふつう使われているのはおよそ4オクターブであるが,5オクターブ以上の音域を使った曲も少なくない。起源はバイオリンと同じく16世紀の初頭であるが,現在のような型のチェロが完成したのは16世紀中ごろのイタリアで,その標準の寸法を決定したのはアントニオ・ストラディバリといわれている。チェロの独奏曲を最初に作ったのは,イタリアの作曲家ドメニコ・ガブリエリ(1680ころ)であるが,それ以来多くの名曲が生まれている。J.S.バッハの6曲の《無伴奏チェロ組曲》,ボッケリーニの《チェロ協奏曲変ロ長調》,ハイドンの《チェロ協奏曲ニ長調》作品101,ベートーベンの5曲の《チェロ・ソナタ》,ドボルジャークの《チェロ協奏曲ロ短調》作品104,サン・サーンス作曲の小品《白鳥》などが特に有名である。名演奏家には,演奏諸技法を飛躍的に高めたといわれ作曲家としても有名なボッケリーニをはじめとし,カザルス,ロストロポービチらがあげられる。音色は非常に美しく,これはこの楽器のもつ大きな魅力である。特に中音域(テノール部分)は最も美しい音のでる部分で,その響きは朗々として柔らかく気品がある。20世紀に入ってからチェロの演奏技術の進歩は著しく,名演奏家も次々と現れたため,近年多くの作曲家がこの楽器のために優れた曲を作るようになった。また最近は今までになかったチェロだけの重奏(四,六,八,十二重奏など)のアンサンブルもできている。
執筆者:三木 敬之
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