ドブジャンスキー(読み)どぶじゃんすきー(その他表記)Theodosius Dobzhansky

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドブジャンスキー」の意味・わかりやすい解説

ドブジャンスキー
どぶじゃんすきー
Theodosius Dobzhansky
(1900―1975)

ロシア生まれのアメリカの遺伝学者。キエフキーウ)大学を1921年に卒業し、レニングラード大学の講師を務め、1927年アメリカに渡り、1937年に帰化した。T・H・モーガンに師事し、カリフォルニア工科大学教授(1936)を経て、コロンビア大学教授(1940)となる。ショウジョウバエを材料に遺伝学的研究を行い、生物進化染色体異常が大きく働いていることを指摘し、名著『遺伝学と種の起原』(1937年、第3版1951年)を出版した。この著は、集団遺伝学理論をもって実験データを分析し、進化機構に迫る最初の試みとして多くの人々に読まれた。ウスグロショウジョウバエの染色体多型の研究はとくに有名で、この研究から、自然集団における多型の保有機構に関して平衡仮説を提唱し、マラー古典仮説と激しく対立した。

田島弥太郎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドブジャンスキー」の意味・わかりやすい解説

ドブジャンスキー
Dobzhansky, Theodosius Grigorievich

[生]1900.1.25. ロシア,ネミロフ
[没]1975.12.19. カリフォルニア,デービス
ロシア生れのアメリカの遺伝学者。父は数学教師。キエフ大学に学ぶ (1917~21) 。レニングラード大学助教授として遺伝学を講じた (24~27) のち,1927年アメリカに渡る。コロンビア大学の T.モーガンのもとで研究に従事。翌年モーガンについてカリフォルニア工科大学に移り,同大学教授 (36~40) 。コロンビア大学教授 (40~62) 。ロックフェラー研究所教授 (62~71) 。カリフォルニア大学教授 (71) 。 20年代より一群の遺伝学者,数学者たちによって C.ダーウィンの自然選択説とメンデル遺伝学とを組合せて,進化理論をつくり上げようとする試みが開始され,ドブジャンスキーもその一人として,37年に著わした『遺伝学と種の起源』 Genetics and the Origin of Speciesは,進化遺伝学の確立に寄与した。従来,ある種に属する個体大部分は野生型遺伝子と呼ばれる同一の遺伝子をもつと考えられ,野生型遺伝子に突然変異が起っただけでは形質の変化は現れず,突然変異遺伝子をもつ個体同士の接合によってこの遺伝子を2個保有する個体が生じたときに初めて形質が変化し,この個体が環境へのより高い適応能力をもっている場合に進化の推進力になると考えられていた。ところが,彼はショウジョウバエを用いた実験でこのような機構に基づく進化の速度よりはるかに急速に進化が起る例を発見し,また突然変異が2個そろわなくても形質に変化が現れることを明らかにし,これらの事実から生存に有利な突然変異が起ればそれがただちに進化の原因となること,種に普遍的な野生型遺伝子というものは存在せず,遺伝子は多様であることを指摘して,独自の進化理論を打立て,進化の遺伝学的研究に大きな影響を与えた。

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改訂新版 世界大百科事典 「ドブジャンスキー」の意味・わかりやすい解説

ドブジャンスキー
Theodosius Grigorievich Dobzhansky
生没年:1900-75

アメリカの遺伝学者,進化学者。ロシア生れ。初めテントウムシ類の分類や変異を研究,その後実験集団遺伝学の創始者チェトベリコフS.S.Chetverikov(1880-1959)などの影響を受けて遺伝学に興味を抱く。1927年アメリカの遺伝学者T.H.モーガンの研究室に留学,そのままアメリカにとどまり,やがて帰化。ショウジョウバエの集団遺伝学をアメリカに根づかせ,幅広い研究を行ったが,中でも自然集団に多数の染色体逆位や致死遺伝子が含まれていることを発見して,その維持機構を調べた研究,性的隔離による種分化の実験的研究などが有名である。主著《遺伝学と種の起源》(1937。70年に《進化過程の遺伝学》と改題)は遺伝進化学の古典として知られる。また人間の遺伝と進化にも深い関心を寄せ,《人間の自由の生物学的基礎》(1956),《進行中の人類進化》(1962)などの書を著して,遺伝学の立場から人種差別などに終始強く反対した。
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世界大百科事典(旧版)内のドブジャンスキーの言及

【隔離】より


[隔離機構]
 1930年以後遺伝学,とくに集団遺伝学の発展につれ,生物進化を種内変異の発生,分化,変種,地方品種の形成などの漸進的な小進化の蓄積としてとらえ,進化の過程を遺伝学的に説明することが可能となった。隔離についても,進化の過程で隔離を引き起こす要因(隔離機構)が問題とされるようになった(ドブジャンスキーT.Dobzhansky,1937)。隔離機構はドブジャンスキーやその他の人の考えを総合して列挙すると次のようになる。…

【隔離】より


[隔離機構]
 1930年以後遺伝学,とくに集団遺伝学の発展につれ,生物進化を種内変異の発生,分化,変種,地方品種の形成などの漸進的な小進化の蓄積としてとらえ,進化の過程を遺伝学的に説明することが可能となった。隔離についても,進化の過程で隔離を引き起こす要因(隔離機構)が問題とされるようになった(ドブジャンスキーT.Dobzhansky,1937)。隔離機構はドブジャンスキーやその他の人の考えを総合して列挙すると次のようになる。…

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