ドミナトゥス(その他表記)dominatus[ラテン]

改訂新版 世界大百科事典 「ドミナトゥス」の意味・わかりやすい解説

ドミナトゥス
dominatus[ラテン]

後期ローマ帝国ディオクレティアヌス以後)の専制君主政をいう。皇帝臣民に自らを〈われらの主dominus noster〉と呼ばせたことから,それ以前の,都市国家・共和政的要素をなお残していた元首政と区別するため想定された概念。その下限はあまり明確ではないが,東ローマ(ビザンティン)帝国の皇帝専制主義をも指して用いられる。すでに1世紀末のドミティアヌスが〈主にして神dominus et deus〉という称号を用いており,ことに3世紀のアウレリアヌスなどが皇帝理念強化のためにこのような称号を多用するにいたった。しかしドミナトゥス概念の実体であるところの専制体制を確立したのは,軍人皇帝時代の危機を収拾したディオクレティアヌスであった。すなわち,ドミナトゥスはローマ伝統の共和政理念とは相反する支配形態であり,アウグストゥス以降の元首政が徐々に進めてきた傾向の到達点でもあった。このような体制において皇帝は神もしくは神の代理人たる絶対的権力者として君臨し,宮廷儀礼や衣服・称号などによってその神的権威が誇示された。皇帝は全軍隊を統轄し,行政・官僚組織をすべて把握することをたてまえとし,また帝国内唯一の立法行為者でもあった。最高顧問会議においてすら,議員は皇帝の面前では直立していなくてはならなかった。身分秩序は完全に階層化・固定化され,職業世襲制が進んだ。経済への国家統制が行われ,国民はさまざまな形で賦課労役などの強制義務を負わされるにいたった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドミナトゥス」の意味・わかりやすい解説

ドミナトゥス
どみなとぅす
Dominatus ラテン語

ディオクレティアヌス帝(在位284~305)以後の後期ローマ帝国の専制君主政をいう。「3世紀の危機」とよばれる、戦争と動揺混乱時代を経たローマ帝国は、ディオクレティアヌス帝、コンスタンティヌス帝(在位306~337)によって、まったく新しい基礎のうえに置かれるようになった。この後期ローマ帝国は、軍事、行政、財政はもとより、社会、経済の隅々まで国家の統制と強制が行き渡り、全住民、全制度、全機構をあげて国家の目的のために奉仕させられるように仕組まれた体制であり、ローマ市民の自由をたてまえ上否定することなく支配構造を打ち立てた帝政初期とはまったく質の異なった国家であった。この国家体制の質を端的に表しているものは、なんらの制度的な制約をもたない専制的な皇帝権力である。臣下に対する皇帝の地位は、奴隷に対する主人(ドミヌス)のごときものであり、実際、皇帝に対する正式な呼びかけも「我らの主」dominus nosterと定められていたことから、後期ローマ帝国を「ドミナトゥス(専制君主政)」とよぶ。これは、皇帝が市民の「第一人者」princepsであることをたてまえとした帝政初期を「プリンキパトゥスPrincipatus(元首政)」とよぶことと対(つい)をなしている。

[市川雅俊]

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百科事典マイペディア 「ドミナトゥス」の意味・わかりやすい解説

ドミナトゥス

ローマ帝政の後半期,ディオクレティアヌス帝以後の政治体制。〈専制君主政〉と訳。この時代には皇帝はオリエント風の絶対専制君主(ドミヌス)となり,身分秩序は固定化,国家による経済統制がすすみ,以後,自由農民は没落し,また都市は衰退した。→元首政
→関連項目軍人皇帝時代

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ドミナトゥス」の解説

ドミナトゥス
dominatus

ディオクレティアヌス帝から始まる中央集権的な専制君主政国家をいう。後期ローマ帝国の政治体制をさす呼称で,西部では476年の西ローマ帝国解体まで,東のビザンツ帝国では610年のヘラクレイオス(イラクリオス)帝の即位までをさす。皇帝がドミヌス(主)と呼ばれたことから由来した呼称で,プリンケプス(元首)と呼ばれたことから由来した元首政とは区別される。

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世界大百科事典(旧版)内のドミナトゥスの言及

【ディオクレティアヌス】より

…また自らを〈主にして神(dominus et deus)〉と呼ばせた。ここにローマ帝国は専制君主政(ドミナトゥス)の時代を迎える。 彼は他の皇帝を指導し,軍団数を倍増し,騎馬軍・特殊部隊をいっそう整備してマクシミアヌス,コンスタンティウス1世にはガリアのバガウダイの乱を,ガレリウスには東方のササン朝ペルシアを鎮圧・撃退させて,国境の安定をもたらした。…

【ローマ】より

…宗教的聖化を得て今や皇帝はプリンケプス(元首)ではなくドミヌス(専制君主)となった。帝政はプリンキパトゥスから専制的なドミナトゥスへと完全に変質したのである。 宮廷内儀礼にも皇帝の神性を強調する制度が取り入れられ,皇帝顧問会は今や皇帝の前では全員が起立しているので聖起立会議(サクルム・コンシストリウムsacrum consistorium)となった。…

※「ドミナトゥス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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