改訂新版 世界大百科事典 「ドミナトゥス」の意味・わかりやすい解説
ドミナトゥス
dominatus[ラテン]
後期ローマ帝国(ディオクレティアヌス以後)の専制君主政をいう。皇帝が臣民に自らを〈われらの主dominus noster〉と呼ばせたことから,それ以前の,都市国家・共和政的要素をなお残していた元首政と区別するため想定された概念。その下限はあまり明確ではないが,東ローマ(ビザンティン)帝国の皇帝専制主義をも指して用いられる。すでに1世紀末のドミティアヌスが〈主にして神dominus et deus〉という称号を用いており,ことに3世紀のアウレリアヌスなどが皇帝理念強化のためにこのような称号を多用するにいたった。しかしドミナトゥス概念の実体であるところの専制体制を確立したのは,軍人皇帝時代の危機を収拾したディオクレティアヌスであった。すなわち,ドミナトゥスはローマ伝統の共和政理念とは相反する支配形態であり,アウグストゥス以降の元首政が徐々に進めてきた傾向の到達点でもあった。このような体制において皇帝は神もしくは神の代理人たる絶対的権力者として君臨し,宮廷儀礼や衣服・称号などによってその神的権威が誇示された。皇帝は全軍隊を統轄し,行政・官僚組織をすべて把握することをたてまえとし,また帝国内唯一の立法行為者でもあった。最高顧問会議においてすら,議員は皇帝の面前では直立していなくてはならなかった。身分秩序は完全に階層化・固定化され,職業世襲制が進んだ。経済への国家統制が行われ,国民はさまざまな形で賦課・労役などの強制義務を負わされるにいたった。
執筆者:松本 宣郎
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