オゴタイ・ハーン国の第4代君主。オゴタイの孫。トゥルイ家がオゴタイ家からハーン位を奪い,モンケが即位したとき,ハイドゥは処刑をまぬがれ,イリ川流域のカヤリクに所領を得た。当時カヤリクは東西交渉路上の一都会として商人が集まり,繁栄していたようである。ここで彼は力を養い,モンケ没後のトゥルイ家の内紛の際に,東方ではアリクブカを支援する一方,西方ではチャガダイ家を攻撃するほどになっていた。アリクブカが負けると,いよいよオゴタイ家領の統一に努力し,1260年代後半にフビライに対して決起した。そしてキプチャク家の支援を得つつ,チャガダイ家を撃破してその北部領土を奪い,宗主権を握り,チャガダイ家の南部領土であるトルキスタンのオアシス地帯の富を吸収する態勢を固めた。そして1269年春タラスの草原でキプチャク,チャガダイ両ハーン国とクリルタイを開いて同盟を結び,大ハーン位につき,こうして元朝との本格的な宗主権争いに突入した。
その後1287年には,ナヤン等,大興安嶺方面のチンギス・ハーンの諸弟の子孫たちを誘って,東西から元朝を挟撃しようとした。この作戦はフビライの親征軍にナヤン等がすぐ敗退したため成功しなかったが,ハイドゥはその後も元朝と一進一退の攻防を繰り返した。そして1301年西方軍の総力を結集して東進したが,カラコルム付近で敗北を喫し,負傷し死亡した。彼は生涯を通じて41回戦い,ほとんどいつも勝利を収めたといわれるほど勇猛だったが,仁慈な人柄のため信望を集めていた。ハイドゥの乱は皇位継承をめぐって亀裂の入っていたモンゴル帝国を,決定的に分裂させ,円滑な東西陸上交通を妨げるなど,帝国にとっては不幸な事件であったが,一方で元朝の積極的な対外活動はこれによって大いに妨げられ,第3次元寇が計画倒れになる一因ともなったのである。
執筆者:吉田 順一
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モンゴル帝国時代に元(げん)帝フビライと対立し中央アジアを制覇した遊牧民の英雄。父はオゴタイの第5子で、当初後継者とされたハシ、母は山地民メクリンの出身である。1251年新皇帝モンケによりオゴタイ一門の有力者が処刑・流罪され所領は細分されたとき、カヤリク方面を与えられ浮上し始めた。60年フビライとアリク・ブハの帝位継承戦争にはとくに動かず、66年以降チャガタイ家のバラクと争い、69年ジュチ家のモンケ・テムルも加えてタラスに会盟し和睦(わぼく)したが、71年フラグ家領侵略に失敗したバラクを暗殺したのを契機に、オゴタイ一門のほかチャガタイ系の多くも取り込み、85年以降はフビライ陣営に攻勢をかけ、アルタイ地区を所領とするアリク・ブハ裔(えい)も傘下に収めた。元軍との大会戦で負った傷で結局死去するが、彼の王国はチャガタイ家のドゥワに実力で継承された。
[杉山正明]
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…オゴタイとその子グユクがあいついで帝国のハーン位についたのちトゥルイ家のモンケが大権を握ると,オゴタイ家の多くの者を謀反の罪で処刑し,軍隊を没収し,何人かに対してのみオゴタイ家領内に分地を与え,軍隊の保有を許した。すなわちトゥクトゥはイミール川流域に,ハイドゥはカヤリクに,カダンはビシュバリクに,メリクはイルティシ川上流域に分地を与えられた。ここにオゴタイ家は分裂状態にし,軍事力もいちじるしく弱化した。…
…1274年(至元11)南宋征服軍の総司令官となり,76年南宋の首都臨安を無血開城させた。翌年カラコルムに派遣され,トゥルイ家諸王の反乱軍を撃破し,87年にはハイドゥを撃退して,モンゴル高原の確保に貢献した。有能のゆえに一時更迭もされたが,フビライ没後は皇太孫テムル(成宗)を擁立した。…
…メルキト部の人。ハイシャンに従って対ハイドゥ戦に活躍,1307年(大徳11)帝位を継いだハイシャン(武宗)とともに中央政界に入った。以後要職を歴任,1328年(至和1)泰定帝が上都で没すると,キプチャク軍団長エル・テムルとむすんで大都(北京)で反乱をおこし,武宗系の帝位回復に成功した。…
…モンケの帝国の統一を強める努力にもかかわらず,彼が対南宋征討開始直後に病没すると,漢地派フビライとモンゴル伝統文化尊重派のアリクブカの兄弟がともにお手盛クリルタイを開いて大ハーン位につくという異常事態が生じた。この争いはフビライの勝利に終わり,中国征服王朝元の建設を導いたが,この争いを奇貨として,オゴタイ・ハーンの孫のハイドゥが勢力を貯え,漢地派フビライに反対して起兵し,チャガタイ,キプチャク両ハーン国の支持も得て大ハーン位についた。元朝はイル・ハーン国の支持を得た。…
※「ハイドゥ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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