改訂新版 世界大百科事典 「ハトムギ」の意味・わかりやすい解説
ハトムギ (鳩麦)
Coix lacryma-jobi L.var.mayuen (Roman.) Stapf.
イネ科の一年草。茎葉は粗剛で,ジュズダマに草姿がよく似ていて,変種とされる。しかし穀粒の殻が指で押せば割れる程度にうすく,ジュズダマのような硬いホウロウ質にならない点で異なる。東南アジアが栽培の発祥地で,中国へは後漢の時代に今のベトナム地方から伝えられた。日本へは中国から渡来し,7~8世紀に記録があるが,栽培が始まったのは享保年間(1716-36)以降である。もっぱら薬用植物として栽培された。湿地でもよく生育するので最近は水田転作作物として,食用,飼料用の栽培も注目されている。東南アジアでは,トウモロコシが導入される以前(16世紀)には重要な作物であった。今日もインドシナ,インドネシアなどでは常食としているところがある。粗タンパク質8.3%を含み,栄養価は高い。精白して飯,粥(かゆ)にして食べる。風味はやや米に似る。精白したものを薏苡仁(よくいにん)と呼んで,漢方で強壮,利尿などに処方する。また民間薬としていぼ取りの効があるとされる。茎葉は青刈飼料とされる。
執筆者:星川 清親
医術
〈薏苡仁〉は漢方薬の中でもとくになじみ深いものである。解熱にはあぶり,毒腫には米のとぎ汁に浸して使う。喉痺,癰腫(ようしゆ),寄生虫駆除,骨痛,筋肉のひきつり,肺気衰弱にも効くとされている。そのほか,葉や根も薬用にされた。日本では江戸時代に,巷間において八朔に果物などを贈答するとき,ハトムギの枝,葉,実のそろってついているものを飾りとしていっしょに添えたという。おそらく,相手の無病息災を祈る思いを,それに託したのであろう。また,薏苡仁は〈キリストの涙〉とか,〈モーセの涙〉〈ヨブの涙〉などと呼ばれている。義人は他者のために涙を流すので,薬効をその涙に象徴したのであろう。
執筆者:槇 佐知子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報