ハーシェル(Sir Frederick William Herschel(1738―1822))(読み)はーしぇる(英語表記)Sir John Frederick William Herschel

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ハーシェル(Sir Frederick William Herschel(1738―1822))
はーしぇる
Sir Frederick William Herschel
(1738―1822)

ドイツ生まれのイギリス天文学者天王星の発見者、恒星天文学の開拓者。ハノーバーに音楽家(軍楽隊員)を父として生まれた。彼もオーボエ奏者として七年戦争に従軍したが、1757年、脱走してイギリスに渡った。教会のオルガン奏者として生活をたて、1772年、妹カロリン・ハーシェルを呼び寄せ、彼女は聖歌隊に加わった。ハーシェルは少年時代から音響学や光学の教科書を愛読したが、しだいに星空に魅せられ、全天を探視する志を抱いた。まず大型望遠鏡自作にとりかかり、教会の仕事のかたわら、鏡面を磨いた。妹は兄に付き添って物語を読んで聞かせ、食事を口に運んだりした。最初の望遠鏡は1774年に完成、焦点距離5.5フィート(約168センチメートル)であった。翌年、焦点距離7フィート、口径6.5インチ(約16.5センチメートル)のものをつくり、次々に大型化して、1789年に焦点距離40フィート、口径4フィート(約122センチメートル)鏡を完成した。構造はニュートン式を改良したハーシェル式を考案した。鏡筒十数メートルの反射鏡を操作するために高い櫓(やぐら)式の支台を備えた望遠鏡は当時のどこの天文台にも存在しなかった。この自作の望遠鏡はおもに自家観測に使ったが、一部は家計を助けるために利用した。観測にあたって妹は忠実な助手をつとめた。

 ハーシェルの最初の成果は、天王星の発見である。1781年、7フィート鏡で黄道一帯を掃天観測中に発見、この業績により、1782年王室天文官兼王立天文協会員に推挙された。これを機に掃天観測は全天に及び、1783年に輝星7個の固有運動を総合して、恒星空間における太陽の系統的運動を確認した。また恒星年周視差を検出する目的で、ガリレイの方式に従って二重星を丹念に観測し、1784年までに800対を含む『二重星目録』を編集した。このなかには二体運動を行う実視連星が収められている。また一般星をあまねく観測して、その見かけの光度と方向とを各天球区画ごとに集計して、輝星は近距離星、暗星は遠距離星という一般的仮定のうえで恒星の空間分布を定めた。その結果がいわゆる「ハーシェルの宇宙」とよばれる体系であり、恒星集団に関する最初の銀河系の概念を形成した(1783)。また掃天観測のなかから、星雲星団合計2500個を含む『星雲・星団目録』を作成した(1802)。以上のような業績により、1816年爵位を受け、その他外国からも多く栄誉褒賞を受けた。

[島村福太郎]


ハーシェル(Sir John Frederick William Herschel(1792―1871))
はーしぇる
Sir John Frederick William Herschel
(1792―1871)

イギリスの天文学者。F・W・ハーシェルの息子。ロンドン西郊のスラウ生まれ。1809年ケンブリッジ大学法科に入学、1816年父の仕事の継承を決意してスラウ天文台で父の助手となった。父が製作した望遠鏡を用いて掃天観測を開始し、1824年に1万回以上の観測、再調査の成果として、二重星380個の視位置と視等級を報告した。1825、1826年にフランス、イギリス両天文学会から表彰された。1830年恒星光度計を用いて一等星が六等星の100倍の明るさであることを測定し、1831年ナイトに叙せられた。1833年一家とともにアフリカの喜望峰に移り、4年間南天の掃天観測に従事し、その結果は1847年に発表された。このほか、1833年『恒星目録』、1864年『星雲・星団目録』を公刊するなど、父の偉業に匹敵する業績をあげた。

[島村福太郎]


ハーシェル(Caroline Lucretia Herschel(1750―1848))
はーしぇる
Caroline Lucretia Herschel
(1750―1848)

ドイツの天文学者、声楽家。ハノーバーに生まれる。天文学者ウィリアム・ハーシェルの妹で、声楽を学び、1772年、先に渡英していた兄ウィリアムのもとに移り、以後、兄とともにイギリスで活躍した。声楽家として成功したが、兄が天文学に傾倒するにつれ、熱心に兄の補助を務めた。1787年、ジョージ3世から兄ウィリアムの助手として50ポンドの年俸を受けたが、これはイギリスにおいて女性が科学的な仕事で報酬を得た初めての例といわれる。1822年の兄の死後はハノーバーに戻り、97歳で亡くなった。1828年にはイギリス王立天文学会の金メダルを受賞している。

 兄の助手だけでなく、1782年から彗星(すいせい)の探索にもかかわり、星雲状天体を三つ発見、さらに1786年に女性として初めて彗星を発見、以後1797年までに八つの彗星を見つけている。1799年には、1712年に刊行されたフラムスティードの『大英星表』の改訂を行った。

[編集部 2023年6月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

選挙公営

国または地方公共団体が個々の候補者の選挙費用の一部または全額を負担すること。選挙に金がかかりすぎ,政治腐敗の原因になっていることや,候補者の個人的な財力によって選挙に不公平が生じないようにという目的で...

選挙公営の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android