改訂新版 世界大百科事典 「パリ盆地」の意味・わかりやすい解説
パリ盆地 (パリぼんち)
Bassin Parisien
パリを中心とするフランス中北部の大盆地。地質的には,ヘルシニアン造山運動でつくられたカコウ岩類や,古生層の露出地域に囲まれた,中生代以降の新しい堆積盆地に相当する。東をボージュ山地とアルデンヌ高原,南をマシフ・サントラル,西をアルモリカン山地に囲まれ,北はドーバー海峡を隔ててロンドン盆地に連なっている。東西,南北それぞれほぼ480kmに及ぶ,西ヨーロッパ最大の堆積盆地である。浅い海底に砂岩や石灰岩などが次々と積み重なるとともに,パリ付近を中心とした沈降が続いた結果,盆地の外側から中心部に向かって,しだいに新しい地質時代の地層が露出する同心円状の地質構造がみられる。各地層は盆地の中心に向かってゆるやかに傾き,また浸食に対する抵抗性を異にするため,盆地の内側にゆるく傾く台地面と,外側に向くコートと呼ばれる急崖からなる典型的なケスタ地形が発達している。したがって,パリ盆地は地形的にみればケスタ平野であり,これにセーヌ川,ロアール川沿いの広い谷底平野が付け加わってつくられている。パリ盆地を南東から北西へ貫流するセーヌ川の水系と,その南部を西流するロアール川の水系とは,ボース平野からノルマンディーのペルシュ丘陵に延びるわずかな高まりで区分されている。ロアール川の河谷は地質的にはパリ盆地に属するものの,地理的にはむしろ独立した一地域を形づくっている。盆地中央部のイル・ド・フランスや北部のピカルディー,南部のボースなどは大規模経営の小麦やテンサイ栽培で特徴づけられ,広々とした台地面に塊状の集村が点在する。これに対して盆地西部のノルマンディーでは酪農やリンゴ栽培を主体とし,畑地を林で囲ったボカージュ景観が卓越する。白亜が露出する盆地東部のシャンパーニュでは,やせた土地を生かしてシャンパンの生産が行われている。豊かな農産物と温和な気候,セーヌ川の水運,ドーバー海峡を通じての北方諸国との交流,これらは,ケスタ地形が古くは天然の防御線となったこととあわせて,パリ盆地を長くフランス文明の中心地たらしめた要因である。
執筆者:小野 有五
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報