フリースラント(その他表記)Friesland

翻訳|Friesland

改訂新版 世界大百科事典 「フリースラント」の意味・わかりやすい解説

フリースラント
Friesland

オランダ北部の州。面積3381km2,人口64万2400(2006),州都レーワルデン。古くは地方名。テクセル島を除く四つのワッデン諸島も同州に属する。農牧業が盛んで,工業の発展は後れ,労働人口はオランダ西部工業地域に流出していたが,最近は東部地域に工業が発達しつつある。〈フリースラント〉という地名はオランダ,ドイツ(東フリースラント),デンマークにまたがる北海沿岸地域に定住していたフリシイFrisiiに由来する。フリースラント州の住民は,現在もオランダ語とフリース語を使用し,道路の標識その他も両語が併記され,固有の文化伝統を誇り,オランダからの独立運動も行われている。

 州東部の砂質地域は起伏に富み,低地部には多数の細流,高地部には農牧の混合農業を営む農村があったが,最近牧畜専業に移行した。この地域の西部は厚い泥炭層に覆われ,16~17世紀に燃料用に泥炭採掘が盛んに行われて〈ピートコロニー〉と呼ばれた。20世紀に入ると排水,土壌改良,土地の交換分合などにより集約的農業が行われた。最近,地域開発政策によりドラハテンDrachten,ヘーレンフェーンHeerenveenなどに労働集約的工業が発達し,ドラハテンは州内第2の都市になった。

 北東部のドックムDokkumから南西部のスタフェレンStaverenに至る中部低地は,泥炭湿原地で多くの湖沼が点在する。16世紀以降,泥炭採掘で泥沢地と化していたが,19世紀中に干拓地に変えられ,水位が高いため牧場や採草地に利用されている。

 北部および西部の,ワッデン海Waddenzee,アイセル湖の沿岸地帯は海成粘土の地域だが,北部では農業が行われ,西部では中世から牧畜が盛んで,ことに育種については白黒乳牛オランダ・フリーシアン種が知られ,レーワルデンの牛市はもっとも重要な年中行事である。前3世紀以降,土を盛り上げた数百のテルプterp(フリース語で〈村落〉の意)と呼ばれる丘に定住が行われ,10~16世紀中ごろにテルプを結ぶ堤防が築かれ,干拓されて海ポルダーとなった。一帯には,〈頭・首・胴型〉と呼ばれる,特有の大家屋農家が見られる。レーワルデン,スネークSneekをはじめ11の中世都市が西部,ことに南西部のゾイデル海(現,アイセル湖)に沿って点在したのは,後背地の牧畜地域が酪製品輸出と農産物輸入を必要としたからである。数多くの湖と運河で結ばれた11の中世都市をスケートで駆け巡る競技は,冬の年中行事である。

ローマ時代,フリーシー人はローマ帝国の国境であったライン川の外側(右岸)に住み,ドイツのウェーザー川に至るまでの北海沿岸に勢力を拡大し,ドレスタットを中心に旺盛な商業活動を展開した。フランク王国の勢力拡大とともに,フリーシー人の勢力圏の西半分はその影響下に入り,キリスト教化が進んだ。メルセン条約(870)でドイツ帝国に属したがその独立性は失われず,荘園制も普及せず自由農民制が維持された。14世紀フリースラント,フローニンゲン,東フリースラントの3地域は分離して異なった運命をたどり,フリースラントは1524年ハプスブルク領に編入された。スペインに対するネーデルラントの反乱に際し,ユトレヒト同盟に参加してオランダ共和国(ネーデルラント連邦共和国)を構成する一州となった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フリースラント」の意味・わかりやすい解説

フリースラント
ふりーすらんと
Friesland

オランダ北部の州。地名は「フリース人の国」を意味し、英語名はフリジアFrisia。アイセル湖北東岸の本土と、その沖合いの西フリジア諸島に属する4島からなる。総面積5741平方キロメートル、陸地面積3357平方キロメートル、人口63万0539(2001)。州都レーワルデン。州の大半は低湿地で、海岸部に肥沃(ひよく)な海成粘土、内陸の南東部にギースト(氷河性砂質土)が分布し、その間に海面より低い泥炭層や湖沼が横たわる。このうち粘土地および干拓された泥炭地は良質な放牧地となり、当地原産のフリジア種の乳牛による酪農が行われるが、砂質地は果樹園、森林に利用される。酪製品加工や羊毛、麻工業がある。

 紀元前300年ごろ、ゲルマン系のフリース(フリジア)人が移住してきた。彼らはテルペンterpenとよばれる盛土集落を形成し、また商業民族として活躍した。8世紀にはフランク人に占領され、1524年には皇帝カール5世に征服された。1579年のユトレヒト同盟には参加したが、1747年までは独自の州総督を任命した。住民は大部分プロテスタントで、現在も独特の文化を維持しており、フリジア語の文学、新聞、放送がある。

[長谷川孝治]

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