ヘキソサミン(読み)へきそさみん(その他表記)hexosamine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘキソサミン」の意味・わかりやすい解説

ヘキソサミン
へきそさみん
hexosamine

ヘキソース(六炭糖ともいう。炭素数6の糖のこと)のヒドロキシ基-OHをアミノ基(-NH2)で置換した構造を有する化合物の総称。また、一般に糖のヒドロキシ基をアミノ基で置換した構造を有する化合物をアミノ糖(グリコサミンともいう。グリコglyco-は糖を意味する)と総称する。

 グルコースガラクトースマンノース(いずれもヘキソースの一種)の2-位(アルデヒド基-CHOから数えて2番目の炭素)のヒドロキシ基をアミノ基で置換したものは、それぞれグルコサミン(2-アミノ-2-デオキシD-グルコース。グルコgluco-はグルコース、ブドウ糖を意味する)、ガラクトサミン(2-アミノ-2-デオキシD-ガラクトース)、マンノサミン(2-アミノ-2-デオキシD-マンノース)である。アミノ基のほかにカルボキシ基カルボキシル基)をもつムラミン酸(3-O-α(アルファ)-カルボキシエチル-D-グルコサミン)やノイラミン酸(5-アミノ-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノヌロン酸)などもヘキソサミンの一種として取り扱う。

 ヘキソサミンは多糖類、ムコ多糖類、糖タンパク質(血液型糖タンパク質など)、糖脂質などの構成成分として動物、植物、微生物に広く存在している。アミノ糖のアミノ基のHは多くの場合、アセチル基(-COCH3)、硫酸基(-SO3H)、グリコリル基(-COCH2(OH))で置換されている。たとえば、甲殻類の殻の成分キチンN-アセチルグルコサミン(グルコサミンの窒素Nにアセチル基がついた化合物)のポリマー(重合体)である。動物体の結合組織の基質成分であるコンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミンとグルクロン酸を構成成分とするグリコサミノグリカングリカンは多糖を意味する)である。ストレプトマイシンカナマイシン、ゲンダマイシンなどはアミノ糖を構成成分とするアミノグリコシド系抗生物質(アミノ配糖体抗生物質)である。

 複合糖質に含まれるヘキソサミンはエルソン‐モルガン反応で検出・定量される。エルソン‐モルガン反応とは、ヘキソサミンを弱アルカリ性でアセチルアセトン(2,4-ペンタジオンともいう)と加熱縮合させたのち、塩酸で酸性としてp-アミノベンズアルデヒド(エールリッヒ試薬という)と反応させると赤紫色を呈する反応である。アミノ糖の生合成は、解糖系の代謝中間体であるフルクトース6-リン酸にグルタミンのアミド基が転移しグルコサミン6-リン酸となり、これからほかのアミノ糖が誘導される。生体のおもなアミノ糖であるN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸の複合糖質への取込みは、UDP(ウリジン5'-二リン酸)-N-アセチルグルコサミンのような糖ヌクレオチドが供与体となり、特異的な糖転移酵素により行われる。

[徳久幸子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「ヘキソサミン」の解説

ヘキソサミン
ヘキソサミン
hexosamine

ヘキソースのアノマー位以外のヒドロキシ基が,アミノ基に置換されたアミノ糖の総称.天然産のおもなものは,2-アミノアルドヘキソースに属するD-グルコサミンD-ガラクトサミンD-マンノサミンである.天然には,通常,N-アセチル体として動物,植物や微生物由来の多糖,糖タンパク質,糖脂質成分として広く分布している.そのほか,3-あるいは6-アミノアルドヘキソースや各種のジアミノアルドヘキソースがカナマイシンA,ネオマイシン,ストレプトマイシンなどの抗生物質の成分として,また,数種のヘキソサミヌロン酸やムラミン酸が細菌の細胞壁や抗原物質から見いだされている.これら天然産の誘導体の加水分解によって得られるほか,多数の合成法がある.変旋光を示し,還元糖としての一般的な性質を示す.2位にアミノ基をもつものは,エルソン-モルガン法で検出される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘキソサミン」の意味・わかりやすい解説

ヘキソサミン
hexosamine

ヘキソースのアルコール性水酸基がアミノ基で置換されたもの。生体および代謝産物である抗生物質などに広く存在する。塩基性であり,酸によって安定な塩をつくるが,遊離状態では不安定である。D-グルコサミンやD-ガラクトサミンは代表的なもので,これらの N -アセチル化物はエビやカニの甲羅をつくるキチン質や軟骨,角膜,血管壁など動物の結合組織に存在するコンドロイチン硫酸などの重要な成分である。

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栄養・生化学辞典 「ヘキソサミン」の解説

ヘキソサミン


 ヘキソースのヒドロキシル基がアミノ基に置換された化合物の総称.例えば,図のグルコサミン.ヘミアセタールのヒドロキシル基がアミノ基で置換されたものはヘキソシラミンとして区別する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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