イタリア啓蒙(けいもう)期の思想家、刑法学者、経済学者。とくに、近代刑法学の先駆者として名が高い。ミラノの貴族の家に生まれ、初めは法律学を志望しパビーア大学に学び、1758年ドクトルを得たが、その後、モンテスキューの『ペルシア人の手紙』(1721)を読んで哲学に興味を抱き、フランス、イギリスの啓蒙思想家たちの著書から強い影響を受けた。また、ベッリ兄弟らミラノの青年思想家たちのグループに加わり、雑誌『イル・カフェ』Il Caffèを発行し、イタリア国民の啓蒙活動を行った。なかでも、当時の専制的な刑事裁判に対して痛烈な批判を浴びせたことはよく知られている。こうした活動から名著『犯罪と刑罰』(1764)が生まれたが、この本の初版は弾圧を恐れて著者も印刷所、発行所もいっさい明らかにされないものであった。その内容は、アンシャン・レジーム下の刑罰制度とその運用のもっている非合理性、残酷性、恣意(しい)性を鋭く批判するもので、フランス革命前夜のヨーロッパ知識人の間に異常な興奮を巻き起こした。彼の刑法理論の核心は社会契約説によって刑罰権を基礎づける点にあり、そこから罪刑法定主義、死刑廃止、拷問の禁止などを主張した。
[小松 進]
『小谷眞男訳『犯罪と刑罰』(2011・東京大学出版会)』
イタリアの啓蒙思想家,哲学者,経済学者。とくに,封建時代末期の刑法のもつ恣意性,過酷性,身分性を批判し,近代刑法学の基礎を築いた人として著名である。当時オーストリアの属領だったミラノの貴族の家に生まれ,そこで死亡した。若いころよりモンテスキュー,ルソーなどのフランス啓蒙思想家より強い影響を受け,ミラノの青年思想家グループ〈イル・カフェ〉の中心的人物であった。《犯罪と刑罰》(1764)はそのグループ内での議論をまとめたものである。弾圧を恐れて匿名で発表されたが,公刊後はヨーロッパ各国で次々に翻訳され,知識人に大きな影響を与えた。彼は,法の目標を〈最大多数の最大幸福〉に求め,その達成の方法として国家契約説より出発する。市民が各自の自由の一部を供出したものが国家権力であり,この供出を超えて市民の自由を制限し,刑罰を科することは不正である。そこで,市民の行動の自由を保障するために,何が犯罪であり,それにどのような刑罰が科せられるかを前もって法律で明確に規定していなければならず(罪刑法定主義),法の規定はいかなる身分の者にも等しく適用されなければならないと主張した。彼はまた,死刑その他の残虐な刑罰は市民の感覚を麻痺させ効果的でないとして廃止を主張した。さらに,拷問の廃止などを主張し,当時の司法制度を鋭く批判した。
執筆者:堀内 捷三
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1738~94
イタリアの啓蒙思想家。ミラノの貴族出身で,啓蒙主義の雑誌『イル・カッフェ』を主宰。1764年匿名で刊行した著書『犯罪と刑罰』において罪刑法定主義の原則や死刑の廃止などを説いたことにより,近代刑法学の祖とされる。
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… この峻厳な刑罰は,つづく普通法期には,ガレー船漕奴や植民地流刑の隆盛が自由刑の出現とも結びついて,裁判所実務によって緩和され,やがて18世紀後半には啓蒙思想の影響下に死刑の退潮は明白となる。ここではベッカリーアの死刑廃止論が有名であるが,ロシアのエリザベータ女帝時代における死刑の廃止(1741‐61),オーストリアのヨーゼフ2世による死刑廃止(1786)なども知られている。プロイセンでもフリードリヒ大王時代に大幅な死刑削減が実現し,1794年の一般ラント法典では死刑に代わって自由刑が中心的な刑罰となった。…
…イタリアの思想家C.ベッカリーアにより1764年に著された刑法学の書物。密室裁判,拷問による自白,罪刑専断主義,過酷な刑罰などを内容とする18世紀の刑事司法に対する痛烈な批判の書である。…
…19世紀イタリア最大の国民作家。ミラノの貴族の出で,母方の祖父ベッカリーアはボルテールの友人であり,名著《犯罪と刑罰》で知られ,北イタリアの啓蒙運動の指導者でもあった。マンゾーニははじめその母方の影響を強く受け,無神論に傾いたが,1808年エンリケッタ・ブロンデルと結婚,その影響下にジャンセニスムの色彩の強いカトリックに改宗した。…
※「ベッカリーア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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