ホウ(硼)酸(読み)ほうさん

改訂新版 世界大百科事典 「ホウ(硼)酸」の意味・わかりやすい解説

ホウ(硼)酸 (ほうさん)
boric acid

ホウ素のオキソ酸総称で,オルトホウ酸,メタホウ酸,四ホウ酸などがある。

化学式B(OH3。これを単にホウ酸ということもある。天然にはホウ酸石として火山の噴気口に産し,イタリアのトスカナ地方のものは有名である。ホウ酸塩硫酸塩酸等と反応させるとたやすく生じ,また酸化ホウ素を水と反応させても得られる。比重1.48,融点170.9℃。透明な無色の六角片状である。構造は図1に示すように,平面状のBO3団が水素結合でつながった巨大分子である。原子間距離はB-O=1.361Å,O-H=0.88Å,O…H=1.84Åで,2種のO-H結合の長さの違いがかなり大きい。加熱すると100℃でメタホウ酸に変化する。水に対する溶解度5.44重量%(25℃)。溶解度は温度とともに著しく増大する。水溶液中ではきわめて弱い酸で,酸解離定数pKa=5.6×10⁻10(25℃)。しかしマンニット,グリセリン等の多価アルコールを加えると,その水酸基と次に示すようなエステル型陰イオンをつくり,これが強酸である。

この反応を利用して中和滴定によりホウ酸の定量をすることができる。

化学式HBO2。オルトホウ酸を100℃以上に加熱すると脱水して生成する。3種の構造があるが,いずれも水素結合でつながった巨大分子構造である(図2)。表に性質と構造を示す。

化学式H2B4O6。ホウ酸を140℃で40時間加熱すると得られる。このナトリウム塩Na2B4O7・10H2Oをホウ砂という。この陰イオンの構造は,2個の四面体形BO4が酸素1原子を共有し,これらが平面BO3と環をつくり,さらにこの二つの環が融合した形となっている(図3)。したがって化学式はNa2[B4O5(OH)4]・8H2Oと書かれる。

化学式B2(OH)4。四塩化二ホウ素の加水分解で得られる白色固体。水と反応し水素を発生してオルトホウ酸となる。強い還元性をもつ。
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百科事典マイペディア 「ホウ(硼)酸」の意味・わかりやすい解説

ホウ(硼)酸【ほうさん】

酸化ホウ素(無水ホウ酸)B2O3の水和した形の酸の総称。オルトホウ酸H3BO3は比重1.48,融点170.9℃。無色鱗片状の光沢ある結晶で単にホウ酸ということもある。硬度3。水に溶けて弱酸性を示し,弱い殺菌作用がある。固体を熱すると100℃でメタホウ酸HBO2,140℃で四ホウ酸H2B4O7,300℃でガラス状の酸化ホウ素B2O3となる。ガラス,陶磁器うわぐすり,琺瑯(ほうろう),顔料,染料などの原料,医薬品,防腐剤として使用。天然には火山地方などの地下から噴出した水に含まれることがある。ホウ砂と硫酸とからつくる。
→関連項目ホウ(硼)酸軟膏

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世界大百科事典(旧版)内のホウ(硼)酸の言及

【殺菌剤】より

…アクリノールは水に溶けないため乳酸塩にしてから,創傷殺菌剤としてガーゼなどに浸して使用する。ホウ(硼)酸も殺菌作用を有し,1~2%液で眼などの洗浄に用いられていたが,5~10%の割に加えたホウ酸軟膏が皮膚疾患に使われるようになった。食品の防腐剤として用いられたこともあったが,現在では禁止されている。…

※「ホウ(硼)酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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