ホウ酸(読み)ほうさん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホウ酸」の意味・わかりやすい解説

ホウ酸
ほうさん
boric acid

ホウ酸というときは、通常オルトホウ酸B(OH)3をさすが、その他メタホウ酸HBO2、通称で次ホウ酸B2(OH)4などのように各種のポリホウ酸などを含めて、ホウ酸ということがある。オルトホウ酸は火山ガス・噴気、ある種の鉱泉水に含まれる。天然産のホウ酸塩ホウ砂(しゃ))の水溶液に硫酸を加えると、溶解度の小さいホウ酸が析出する。

  Na2B4O7+H2SO4+5H2O
   ―→Na2SO4+4H3BO3
 光沢のある無色のうろこ状結晶。融点170.9℃、比重1.48。溶解度水4.17%(15℃)、4.65%(20℃)。水溶液は弱い一塩基酸。H3BO3のように書かれるが、三塩基酸ではなくて一塩基酸である。

  B(OH)3+2H2O
   ―→H3O++B(OH)4-
 水溶液は弱酸性(4%溶液でpH3.9)を示し、弱い殺菌力をもつ。アルコールにも溶ける。エーテルには溶けない。エチルエステルに点火すると緑色の炎をあげる。また、塩酸溶液はクルクマ紙(クルクミンC21H20O6を吸収、乾燥させた試験紙)を赤変させる。結晶を熱すると水を失ってメタホウ酸HBO2(100℃)、四ホウ酸H2B4O7(140℃、40時間)を経て300℃で酸化ホウ素となる。ホウ酸はホウケイ酸ガラスうわぐすり(ほうろう)、防腐消毒剤、顔料、化粧品などの原料となる。多量に吸収されると危険で、大人約20グラム、小児5グラムを致死量とする。

[守永健一・中原勝儼]

医薬面

殺菌・防腐剤で、天然ホウ砂より精製してつくる。無色または白色の結晶あるいは結晶性粉末で、においはなく、わずかに特異な味がある。弱い殺菌力をもつ。かつては比較的毒性が少ないものとして肉類や油類の防腐剤に用いられたことがあるが、この摂取によって消化管障害や発疹(ほっしん)がおき、さらに中毒により死亡例もおきたことから、現在では食品の防腐剤としては使用は禁止されている。医薬用としては、うがいや鼻腔(びくう)、腟(ちつ)の洗浄用に1~2%水溶液が、また洗眼用に2%水溶液が用いられていた。皮膚病や外傷に対しても5~10%軟膏(なんこう)が用いられていたが、火傷など損傷を受けた皮膚や粘膜から吸収されて中毒をおこした例もあり、日本薬局方からホウ酸およびホウ砂の製剤は、すべて削除された。現在では、洗眼薬としてわずかに使用されているにすぎない。なお、ホウ酸による中毒症状は、発疹、急性胃腸炎、血圧降下、けいれん、ショックなどである。

[幸保文治]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「ホウ酸」の解説

ホウ酸
ホウサン
boric acid

ホウ酸はH3BO3(61.83)の伝統名.オルトホウ酸ともいう.IUPAC方式の正式名称は3通りあり,トリオキソホウ酸(酸命名法),トリオキソホウ酸三水素(水素命名法),トリヒドロキシボラン(水素化物置換命名法)である.最後の名称は構造B(OH)3を示すのでよいとされている.ホウ素のオキソ酸には,Bオルト酸の縮合形であるポリ酸のメタホウ酸 (HBO2)n,そのほか,Bの見掛けの酸化数が異なる次ホウ酸過ホウ酸がある.広い意味でこれらを含めてホウ酸ということもある.H3BO3はホウ酸石(sassolite)として火山の噴気,温泉水,ホウ酸塩鉱物中などに存在する.ホウ砂,そのほかのホウ酸塩鉱石を,硫酸や硝酸で加熱処理すると得られる.平面三角形型のB(OH)3が水素結合によりつながって二次元に広がり,さらに平面は互いに平行に積み重なっている.B-O0.136 nm,O-H0.088 nm,O…H 0.184 nm.∠O-B-O120°,∠B-O-H114°,∠B-O…H 126°.層間距離0.318 nm.無色,光沢のあるりん片状結晶.密度1.48 g cm-3.飽和水溶液は25 ℃ で5.44%,100 ℃ で27.5%.メタノールエタノールにも同程度溶ける.水溶液は弱酸性で,水酸化物イオン受容体の一塩基酸(ルイス酸)としてはたらく.

B(OH)3 + 2H2O = H3O + B(OH)4

pKa 9.25.ホウ酸の希水溶液ではB(OH)4がおもな溶存種であるが,濃厚溶液や液の pH を調節したものではポリ酸イオンB3O3(OH)4,B4O5(OH)42-,B5O6(OH)4なども共存する.一方,ホウ砂のようなポリ酸塩も希水溶液中では (OH)4 を生じる.ホウ酸の水溶液に多価アルコール(グリセリン,マンニットなど)を添加するとキレートを形成して溶解度,酸性度ともに増加する.ホウ酸の固体を加熱すると,100~130 ℃ で水分子を失ってメタホウ酸 (HBO2)n になる.さらに加熱すると,約300 ℃ でB2O3となる.ホウ酸は,HFと反応してフルオロホウ酸に,H2O2と反応して過ホウ酸になる.また,硫酸の存在下で,アルコールと反応してホウ酸エステルB(OR)3を,酸塩化物ROClとの反応ではB(COOR)3を生じる.ホウ酸水溶液に金属水酸化物を加えて蒸発させると,オルトホウ酸塩ではなく,ポリ酸塩(四ホウ酸塩など)が析出する.殺菌力を利用して外用の医薬品(たとえば,塗布用軟膏),洗浄剤や接着用糊剤への添加物,せっけんや化粧品に添加される.繊維や木材の仕上げ,サイジング,コンデンサーの電解液,ステンレスや非鉄金属の溶接のフラックス,耐熱ガラスや陶磁器の釉薬(ゆうやく)などに広く利用されるほかに,各種ホウ素化合物の製造原料などの用途もある.わが国は,ホウ酸の形ではおもにロシア,アメリカから輸入している.ホウ酸の化審法既存化学物質安全性点検結果は,難分解性ではあるが高濃縮性ではないと判断される物質.化学物質排出把握管理促進法「ほう素及びその化合物」は第1種指定.[CAS 10043-35-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホウ酸」の意味・わかりやすい解説

ホウ酸
ホウさん
boric acid

酸化ホウ素 B2O3 が水和して生ずるオキソ酸。オルトホウ酸,メタホウ酸,四ホウ酸などが知られている。このうち単にホウ酸といううときはオルトホウ酸 H3BO3 をさす。無色,無臭の透明な結晶,あるいは白色塊状ないし粉末状物質。さわるとなめらかな触感がある。加熱すると 100~105℃で水1分子を失い,140~160℃でピロホウ酸に,さらに高温に加熱すると無水物になる。弱酸で 0.1mol濃度の水溶液の pHは 5.1である。水,アルコール,グリセリンに可溶。アルコール溶液に点火すると緑色の炎を出して燃えるので,この反応をホウ素の検出に利用する。水溶液は消毒剤に用いられる。ガラス,ほうろうなどの窯業材料,化粧品,写真,染色,鉄鋼材料などに広く利用される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ホウ酸」の解説

ホウ酸

 BH3O3 (mw61.83).H3BO3

 静菌作用があるが食品には使用が許可されていない.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android