日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ボース‐アインシュタイン統計
ぼーすあいんしゅたいんとうけい
Bose‐Einstein statistics
多数の粒子の運動を統計的に扱って、その系の性質を表現する方法の一つ。1924年にインドのボースが、プランクの放射公式を量子統計の方法で導出したときに用い、アインシュタインが物質粒子にも適用した。単にボース統計ともいう。
量子力学では同種粒子の区別はできないので、N粒子からなる系を表す一つの量子状態は、各1粒子状態に粒子が何個ずつ入っているかによって指定される。この数を占有数という。この占有数に制限がない場合をボース統計という(一方、2個以上の粒子が同じ状態にならないという制限がある場合をフェルミ‐ディラック統計という)。
粒子を小球とし、1粒子状態を器で表すとする。2個の球を3個の器に分ける場合、球が識別できるときには各球が三つの器のどれに入るかで3×3=9通りが可能だが(フェルミ統計では後者の3通りのみが許される)。
の(1))、識別できないと の(2)のように、2球とも同じ器に入る場合が3通り、別の器に入る場合が3通り、計6通りしかない。ボース統計ではこの6通りを考える(一方、このようなボース統計に従う粒子をボース粒子またはボソンという。0を含む整数スピンをもつ素粒子や、光子、ヘリウム4などがボース粒子である。また格子振動やスピンの運動を量子化して得られるフォノン、スピン波(マグノン)などもボース統計に従う。
ボース統計に従う粒子系が絶対温度Tの熱浴(物体と接触して熱のやりとりをする外界)と粒子浴(物体と接触して粒子のやりとりをする外界)に接しているとして統計力学的に扱うと、エネルギーεをもつ粒子数の平均値は
f(ε)=1/[e(ε-μ)/kT-1]
で与えられることが示される。これをボース分布関数といい、kはボルツマン定数、μは化学ポテンシャルである。光子やフォノンなど粒子数が固定されない場合、粒子浴を考える必要はなく、μは0となる。また、ボース粒子の理想気体で温度を下げると、系の次元や密度によっては有限の温度T0以下の温度で最低エネルギー(ε=0)の状態に、莫大(ばくだい)な数の粒子が「落ち込む」ようになる。これをボース‐アインシュタイン凝縮という。
[小出昭一郎・小形正男]