翻訳|polonium
周期表第ⅥB族元素に属する酸素族元素の一つ。1889年D.I.メンデレーエフは,周期表のこの位置にいまだ知られていない原子番号84の元素が存在するはずであると予言した。98年にキュリー夫妻は,現在のチェコスロバキア領ボヘミアのヨアヒムシュタール鉱山産のウラン鉱石,ピッチブレンドからこの84番元素を発見し,夫人の故国ポーランドにちなんでポロニウムと名づけられた。
多くの同位体があり,天然放射性系列には次の7種の同位体が存在する。トリウム系列にトリウムA(216Po),トリウムC′(212Po),ウラン系列にラジウムA(218Po),ラジウムC′(214Po),ラジウムF(210Po),アクチニウム系列にアクチニウムA(215Po),アクチニウムC′(211Po)。しかし,このうち210Po以外は寿命が短く実際的には問題とならない。
キュリー夫妻が発見したのも210Poであり,これは半減期138.401日でα線を放射して壊変し安定な鉛206Pbとなる。キュリー夫妻が注目したのもピッチブレンドに存在する強い放射能であって,ポロニウムは放射能を手がかりにして発見された最初の元素である。ポロニウムは238Uの崩壊生成物としてウラン鉱石,トリウム鉱石にわずかに含まれる。ピッチブレンド1t中に0.1mgのポロニウムが含まれるという。
現在では核反応装置によりビスマスBiに中性子を照射してミリグラムないしグラム量が得られている。
209Bi(n,γ)210Bi─→210Po+β⁻
中性子照射後溶液としてから溶媒抽出,イオン交換樹脂によってビスマスから分離できる。より卑な金属,たとえば金の板上に電着させ,これを昇華して精製する。
単体ポロニウムは銀色の金属光沢を有する固体で,低温型のα(立方格子a=3.345Å)と高温型のβ(菱面体格子a=3.359Å,α=98°13′)の2形態がある。転移は36℃で起きるが18~54℃では両者が共存する。この転移はポロニウム箔の電気伝導度の温度依存性を測定しているときに初めて認められた。比抵抗はαでは42×10⁻6Ω・cm,βでは44×10⁻6Ω・cmで,電気の良導体であり,抵抗の温度係数は正であって同族のテルルなどに比べて金属としての特徴を示す。VIB族の元素ではあるが,むしろIVB族の鉛,VB族のビスマスに性質が似ている。ポロニウムは酸素と直接反応して黄橙色のPoO2となる。250~300℃で反応は速い。500℃ではPoO2は分解してポロニウム単体となる。PoO2を塩酸中に入れて熱するとPoCl4の黄色溶液となる。これに過剰量のCsClを加えるとCs2[PoCl6]の六配位錯体(黄緑色)が生成するが,加水分解しやすい。ポロニウムと臭素,ヨウ素は直接反応してPoBr4,PoI4などを与える。α線源として放射線の生物学的影響の研究などに用いられる。しかし臓器や眼球に対して有害であるから注意を要する。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Po.原子番号84の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p4の周期表16族カルコゲン元素.安定同位体がなく,天然で特定の同位体組成を示さないので原子量はない.1898年にM. Curie(キュリー)により,せんウラン鉱中に最初の放射性核種(質量数210)として発見された.元素名はCurieの生国ポーランドにちなんで命名された.
質量数188~220までの同位体核種が知られる.209Po がもっとも長寿命で半減期102 y のα崩壊核種.210Po は半減期138.376 d のα崩壊核種.α線エネルギー5.3 MeV.ウラン系列中に存在(古典名RaF)し,崩壊により質量数206の鉛(RaG)となる.α線の標準線源,イオン源,高い発生熱量140 W g-1 を利用して宇宙用放射能電池に使用される.α放射体であるので非常に有害で,臓器,血球などはとくにポロニウムの害を受けやすい.常温で銀色の金属.同族のテルルより金属性が強い.昔はウラン鉱より抽出したが,現在は原子炉で209Bi(n,γ)210Bi(RaE)核反応で得られる 210Bi の β- 崩壊により生じる 210Po を抽出する.210Po のほか6種の放射性同位体,218Po(RaA),214Po(RaC′),216Po(ThA),212Po(ThC′),215Po(AcA),211Po(AcC′)が天然に存在(崩壊系列中)する.銀白色の金属.α,βの二相があり,立方晶のα相は36 ℃ で三方晶系のβ相に転移する.密度9.32 g cm-3(20 ℃,α相).融点254 ℃,沸点962 ℃.第一イオン化エネルギー8.42 eV.標準電極電位 Po2+/Po 0.368 V.酸化数-2,2,4,6.空気中で徐々に酸化皮膜をつくる.塩素,臭素,ヨウ素とは,200~400 ℃ で反応してPoX4(X = ハロゲン)を生じる.水に不溶,塩酸,硫酸,濃硝酸に可溶.硝酸溶液から鉄やニッケル上に金属Poが析出する.
210Po 酸化物,水酸化物及び硝酸塩の空気中濃度限度9×10-6 Bq/cm3,廃液中または排水中濃度限度6×10-4 Bq/cm3.[CAS 7440-08-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表第16族に属し、酸素族元素の一つ。1898年フランスのキュリー夫妻によって、ピッチブレンドからラジウムとともに発見された放射性元素で、夫人の生国ポーランドにちなんで命名された。天然放射性系列にはポロニウムの七つの同位体が含まれるが、このときのものは半減期138.4日のポロニウム210である。ウラン238の崩壊生成物としてウラン鉱石中に存在するが、含有量はきわめて少ない(ピッチブレンドでも1トン当り0.1ミリグラム以下)。最近では原子炉内でビスマスに中性子を照射し、次の核反応によってミリグラム程度の量でつくられる。
中性子照射したビスマスの塩酸溶液に銀を入れると、イオン化傾向の差で銀の表面にポロニウムが析出する。これを真空昇華すると単体を得ることができる。銀色の光沢をもつ軟らかい金属で、低温でのα(アルファ)型(単純立方格子)、高温でのβ(ベータ)型(単純菱面体(りょうめんたい)格子)の二つの変態がある。化学的にはテルルおよびビスマスに類似している。ポロニウム210はα線源として用いられる。またベリリウムとの合金はγ(ガンマ)線の混ざらない中性子源として重要。
[鳥居泰男]
ポロニウム
元素記号 Po
原子番号 84
原子量 (209)
融点 254℃
沸点 962℃
密度 α;9.32g/cm3
β;9.4g/cm3
結晶系 α;立方
β>54℃;三方
固体,六方
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…自然に放射線を放出するこれらの現象に対して,〈放射能〉ということばを提唱した。天然鉱石の放射能を調べる中で,強い放射能をもつ未知の元素の存在を予測し,98年,ピエールとの協同でウランの原鉱石ピッチブレンド中に新元素を発見し,その一つを祖国ポーランドにちなんでポロニウム,もう一つをラジウムと名づけて発表した。その過程で放射線を目印にした分析法など,放射化学の基本的方法の開発を行った。…
…98年以降妻マリーの放射能に関する研究に協力して,ウランの原鉱石ピッチブレンドの分析を行い,強い放射能をもつ新元素を発見した。これらの新元素は,ポロニウムとラジウムと名付けられ,98年の7月と9月にそれぞれ発表された。この発見は,1900年にパリで開かれた国際物理学会議でも報告され世界的に認められた。…
※「ポロニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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