イギリスの民間伝承における妖精の女王。夢を支配し,妄想を産む妖精の産婆や夢魔と同種に扱われる。語源はウェールズ語のmab,maeve(子ども)に由来するとも,mabel(少年)の縮小されたものとも言われる。ケルト神話のコノートの狡猾(こうかつ)な女王メブMebhから由来したという説もあり,ウルスター国との長い戦いは彼女のそそのかしによるという。妖精の女王としてティタニアとも混同されてくる。シェークスピアは《ロメオとジュリエット》のなかで,マブが眠っている人間の顔の上をハシバミの実の殻の車に乗って横ぎるとさまざまな夢になる,と言っている。人や馬の髪の毛をもつれさせると言われ(これは“妖精の髪”という),身体はケシ粒ほど小さい夢の妖精の女王として描かれている。ミルトンは《ラレグロ》(1631)のなかで〈妖精マブ〉,ベン・ジョンソンは《サティール》(1603)で〈妖精の女主人〉,シェリーは長詩《マブ女王》(1813)で〈呪術の女王〉とし,ヘリックは〈夢をつかさどる妖精女王〉としている。
執筆者:井村 君江
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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