歌舞伎狂言。世話物。3幕。通称《忍ぶの惣太》。河竹黙阿弥作。1854年(嘉永7)3月江戸河原崎座初演。配役は忍ぶの惣太を4世市川小団次,花子実は松若を坂東しうか,吉田梅若を沢村由次郎(のちの3世沢村田之助)。謡曲《隅田川》の梅若伝説をふまえたお家世話狂言。はじめ1830年(文政13)3月江戸中村座の《桜清水清玄(さくらさくらきよみずせいげん)》を補作したが小団次が承服せず,黙阿弥は再度添削,それでもダメで,3度目にようやく気に入り上演も成功したという曰くつきの狂言である。鳥目の俠客に扮した小団次が吉田梅若を殺すくだりに竹本を入れ,せりふを両者の割りぜりふにするなど,上方下りの小団次の芸風にマッチさせるよう工夫した。もっとも世話物に竹本を入れたのはこれ以前の《切られ与三》にもある。小団次がこれを契機に黙阿弥と提携することになる。その意味で重要な作である。吉田家のお家騒動で,当主の松若丸が遊女花子実は盗賊霧太郎と姿を変えているという,性の倒錯美を坂東しうかが妖しく見せ,飯を食いながら捕方と立回りをする場面は俗に〈おまんまの立回り〉と呼ばれる。この作には南北の《桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしよう)》の影響が濃く,清玄・桜姫の世界をもふまえている。このとき梅若丸を演じたのは,のちに脱疽で四肢を失ってなお名人といわれた3世沢村田之助であったが,隅田川堤の春宵の殺し場は,江戸の最期をかざる錦絵のような美しさであったといわれている。
→隅田川物 →清玄桜姫物
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。三幕。河竹黙阿弥(もくあみ)作。通称「忍ぶの惣太(そうた)」「桜餅(さくらもち)」。1854年(嘉永7)3月、江戸・河原崎(かわらさき)座で4世市川小団次の惣太、初世坂東志うかの松若らにより初演。梅若伝説に基づいた「隅田川物」で、忍ぶの惣太実は吉田家の旧臣山田六郎が主人公。桜餅屋を営みながら主家のための金策に苦心する惣太は、隅田堤で幼君梅若をそれと知らず殺害して金を奪う。また、女装して吉原の遊女花子となっていた当主松若を、惣太はそれと悟って身請けしようとするが、諸事行き違い、主(しゅ)殺しと知った惣太はわざと松若に斬(き)られ、松若は家宝都鳥の印と系図を入手して、お家再興を果たす。4世小団次と黙阿弥が提携した第一作で、幕末の白浪物流行の機縁となった記念すべき作品。鳥目(とりめ)を患うため誤って幼君を殺す惣太や、盗賊霧太郎に身をやつし、しかも女装する松若などの趣向に、幕末の退廃気分が色濃く表れている。技巧としては、竹本を使った梅若殺し、大詰の松若が手下の峰蔵(みねぞう)(惣太役者が早替りで演じる)に給仕させ、飯を食いながら捕方(とりかた)と立回りする「おまんまの立回り」などが特色。
[松井俊諭]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…これを歌舞伎にとりこんだのが河竹黙阿弥である。黙阿弥は提携した4世市川小団次の柄(がら)や芸風に合わせて,1854年(安政1)の《都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)》をはじめ《鼠小紋東君新形(ねずみこもんはるのしんがた)》《網模様灯籠菊桐(あみもようとうろのきくきり)》《小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)》《三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)》《勧善懲悪覗機関(かんぜんちようあくのぞきがらくり)》《船打込橋間白浪(ふねへうちこむはしまのしらなみ)》など,傑作・佳作を続々と書いて白浪作者の異名を得,小団次も白浪役者と呼ばれた。13世市村羽左衛門(のちの5世尾上菊五郎)のために黙阿弥が書いた《青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)》もある。…
※「都鳥廓白浪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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