ミームとは,かつてのJ.G.ドビュローのピエロの芸に代表されるパントマイムとは区別されて,現代に至り,フランスのエティエンヌ・ドクルーÉtienne Decroux(1898-1991)によって創始された新しい身ぶり芸術表現に対する呼名である。ドクルーはまずJ.コポーのビュー・コロンビエ座に学び,その後はC.デュランのアトリエ座で,J.L.バローや後にはM.マルソーなどとともに,単なる物まねではないこの新しいジャンルに踏み出して,その創始者となった。ミームとパントマイムの対立は,スタイル化と抽象化の問題にある。一般にパントマイムはある動作によって筋を説明してゆくだけなのに対して,ミームはその中に創造的で独創的な部分を抽象化して提出することが必要とされる。それゆえ,ミームに流れる時間は,マルソーの表現を借りれば,その中に句読点をおいて一種の準備期間を置くことになる。観客は独自に準備された時間の中で,演者の動作を受けとめるようになるのである。
普通,ミームの形式は,大別して次の三つに分けられる。(1)まず抽象化された動作や動きによって,物語を構成するミモドラム,(2)次にダンスに近いミーム・ダンセ,(3)そしてまったく抽象的な動きを追求してゆく純粋なミームの,三つである。こうしたミームを,俳優教育を目標として実践する人にドクルーを師と仰ぐジャック・ルコックがおり,彼は独自な〈ルコック・システム〉を完成させている。
→パントマイム
執筆者:利光 哲夫
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ドーキンスRichard Dawkins(1941― )によって、遺伝子geneの対概念として命名された概念。『利己的な遺伝子』The Selfish Gene(原著初版1976/翻訳版1991・紀伊國屋書店)で提唱された。遺伝子は体をつくるが、ミームmemeは文化をつくる。そして遺伝子と同じように淘汰(とうた)によって次の世代へと引き継がれていく。ドーキンスは生物学における物理法則に匹敵するような普遍的法則として、「全ての生物は自己複製を行う実体の生存率の差に基づいて進化する」という原理を提唱している。ミームというのはドーキンスの造語であるが、この自己複製あるいは模倣の単位をさすギリシア語「mimeme」を「gene」と対になるように縮めたとしている。
ミームは比喩(ひゆ)ではなく遺伝子と同じく実体である。実際の生物進化においても教育(文化の伝承)が体と同様に重要である例がいくつか示されている。たとえば、一部の鳥類の鳴き声、動物による狩りなどは遺伝子に書かれた情報ではなく、親から子への教育の結果であることが示されている。また、人間のもつ文化、とくに言語とそれによって語り継がれる物語、宗教などもミームである。
[中島秀之 2019年9月17日]
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…馬の調教に際し,馬を馬場いっぱいに円く走らせるのと同じく,舞台または教室で,円を描くようにして動いていくさまをいう。ミームmime黙劇。マイムともいう。…
…演者が声を用いず,身体の動きや顔の表情のみを表現手段とする芸能。単に〈マイムmime〉ともいい,〈黙劇〉〈無言劇〉などの訳語・用語も用いられる。
[パントマイム前史]
pantomimeという言葉は,その語源をさかのぼれば,古代ギリシア語のpantōs(すべて(に))とmimos(ものまね)の合成語pantomimosであり,この言葉自体は古代ギリシアの多くの文献に見ることができる。しかし,このような〈ものまね〉あるいは〈呪術的模倣所作〉とでも称すべきものは,周知のように,演劇一般の〈始源的形態〉にほぼ共通して見ることができる重要な一構成要素であり,そのようなものの一種として,古代ギリシアにおいては先のmimos(あるいはpantomimos)という言葉で表現される〈ものまね〉を中心とした座興的な雑芸(これを演劇史で〈ミモス劇〉などとも呼ぶ)が行われていたことは事実であるにせよ,それが今日のパントマイムに通じる一つの独立した芸能ジャンルであったとは言いがたく,演劇史では,ふつうパントマイムの起源を,古代ローマのパントミムスpantomimusに求めることが行われている。…
…演劇的な舞踊,舞踊劇ともいわれるようなものを指し,劇場的な舞台舞踊である。演劇がせりふによって進行するのに対し,せりふの代りに舞踊およびミーム(マイム)によって進行する劇をいう。一貫した筋があり,2人以上の登場人物をもち,その登場人物が何かの役にふんし,したがってその役の要求する衣装を着し,舞台装置をもった劇で,せりふをいっさい排して舞踊だけによって構成されるものである。…
…たとえば,イタリアのコメディア・デラルテの中には,パントミムス的要素を色濃く見てとることができる。なお,17,18世紀にフランス宮廷などで行われた神話を題材とする仮面舞踊劇(バレエ)も,パントミームpantomimeの名で呼ばれている。【川添 裕】
[近代的パントマイムの誕生]
19世紀に入ると,パントマイムは演劇史の表面に現れ,その全盛期を迎えるにいたった。…
※「ミーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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