メンデル(George Lohann Mendel)は19世紀のオーストリアの修道僧で、修道院の庭でエンドウを栽培し、遺伝の法則を見いだしたとされています。エンドウの種子、さや、茎の形や色に7種類の違いがあることに注目し、かけ合わせ実験を行い、その表現型を丹念に記録しました。
たとえば、種子には表面がつるっとして丸いものと、しわの寄ったものとがありますが、この2種類のエンドウをかけ合わせると、最初の世代はすべて丸いつるっとした種類のエンドウができます。これらをもう一度かけ合わせると、丸い種子のエンドウとしわしわの種子をつけるエンドウが、3対1の割合でできることがわかりました。
このようにしてメンデルは、①種子の形、②子葉の色、③種皮の色、④さやの形、⑤さやの色、⑥花の位置、⑦丈の高さの7種類の表現型に注目してかけ合わせ実験を行い、遺伝に関する3つの重要な法則を見つけました。
①優劣の法則
表現型が異なる両親の場合、子どもにみられる表現型が「
優性に対応する対立遺伝子をAで表し、劣性に対応する対立遺伝子をaで表すと、ヘテロ接合体の遺伝子型はAaになります。この時、Aの表現型は表に現れてきますが、aに対応する表現型は観察することはできません。
先に、ヘテロ接合の時にどちらの対立遺伝子の影響が形質として現れてくるかで優性、劣性の区別があることを述べましたが、すべての対立遺伝子間に優劣の差があるわけではありません。両方の対立遺伝子の表現型が対等に現れる場合があります。これを「
血液型Aの人の遺伝子型はAAかAOで、B型の人はBBかBO、AB型の人はAB、O型はOOで表すことができます。AとBの対立遺伝子はOの対立遺伝子に対して優性ですが、お互い同等です。
A型とB型の夫婦を想定すると、それぞれの遺伝子型がAOとBOである時、子どもの遺伝子型はAB、AO、BO、OOの4種類が考えられます。実際の血液型はAB型、A型、B型、O型と判定されます(図7)。
②分離の法則
ヘテロ接合同士の子ども、およびそれ以降の子孫の分離を考えてみます。子ども世代の遺伝子型をみるとAAが1、Aaが2、aaが1の割合になりますが、表現型はAAとAaのAタイプ3に対し、aタイプは1の割合に分離することがわかりました。世代をへても、その比率は変わらないこともわかりました。
③独立の法則
2つ以上の形質を決める対立遺伝子は、それぞれの遺伝子ごとに独立して次の世代に伝達されます。しかし、この現象は異なる染色体にある遺伝子において成り立つ原則です。同じ染色体に存在する遺伝子はいっしょに次世代に伝わる可能性が高く、互いが近ければ近いほどその確率は高くなります。
このような現象を「
田村 和朗
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
オーストリアの修道院僧で生物学・気象学者でもあったG・J・メンデルにより発見された、有性生殖を行う生物における遺伝の基本法則。1865年に「植物の雑種に関する実験」と題して発表されたが、その真価が認められるようになったのは35年後のことである。『種の起原』で知られているC・R・ダーウィンもこの論文には気づかず、1868年に著した『飼育動植物の変異』ではメンデリズムの要点をつかみながら、この概念を徹底するに至らなかった。メンデルの法則の再発見は、ド・フリース、コレンス、チェルマクの3人によって1900年に独立になされた。これが近代遺伝学幕開きの契機となった。
メンデルの法則は、一般には顕性の法則、分離の法則、独立の法則の三つからなる。顕性の法則は、対立形質をもつホモ個体間の交配から雑種第一代(F1)をつくると、F1ではしばしば対立形質の一方だけが現れ、他方は隠れる現象、つまり対立形質間に顕性・潜性の関係があることをいう。独立の法則は、二つ以上の形質に関する遺伝様式について、もしそれらの形質を決定する因子間に染色体上の連鎖がなければ、それらの形質は互いに独立に組み合わされた結果として表現されることをいう。しかし、メンデルの最大の功績は、融合説にかわるものとして粒子説を正しく認識したことで、分離の法則がそれを端的に示している。すなわち、F1のヘテロ個体(異型個体)どうしをかけ合わせると、F2では形質の分離がおこり、たとえ潜性な形質でもF2個体に表現されてくることをいう。遺伝の融合説に従えば、このような分離は不可能である。遺伝形質を決定する因子(遺伝子)は「粒子」状のものとして維持されていなければならない。F1で表現形質としては隠された潜性因子が完全に維持、伝達されていくことをいう。したがって、この法則は、遺伝因子の粒子性を強調するという歴史的意味しかもっていないといえる。
近代遺伝学の歩みは、メンデルの法則に従わない例を研究してきたという側面ももっている。たとえば、遺伝子の型と表現形質はかならずしも一対一の対応がつかないこと、環境要因による遺伝子発現への影響、多数の遺伝子の染色体上における連鎖、減数分裂の機構を乱す自己的な遺伝子の存在、核外にある遺伝子など、すべてメンデルの法則に従わない原因や因子である。このような例外がある一方、遺伝子は事実「粒子」であり、メンデリズムはどのような遺伝子、形質に対しても正しい概念なのである。遺伝形質に及ぼす環境の影響もメンデリズムの立場から理解されなければならない。
[髙畑尚之]
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「メンデルの遺伝法則」のページをご覧ください。
…核に存在する遺伝子を核内遺伝子または単に遺伝子というのに対し,細胞質中の遺伝子を細胞質遺伝子またはプラズマジーンという。核内遺伝子およびこれに支配される形質は原則として両親性の遺伝を行い,メンデルの法則に従って後代に伝わる。細胞質遺伝子およびこれに支配される形質は原則として母親からだけ後代に伝わり,単親性の細胞質遺伝をする。…
…それまで,遺伝をつかさどる物質は液体のようなものであり,子どもでは両親の遺伝物質が,ちょうど白と黒のペンキを混ぜ合わせたときのように混じり合い,再び分かれることがないとする〈融合遺伝〉の考えが支配的であった。このようなときメンデル(1865)はエンドウをつかい,子葉の色の緑と黄のような対立形質について異なる両親を交配し,その後代をいわば家系別に追跡・調査してメンデルの法則に到達した。メンデルのもっとも重要な貢献は,対立形質を支配しているのは対立的な要素(現在の対立遺伝子)であり,子どもは両親からこの要素を一つずつ受けつぐが,これは決して融合せず,子どもが配偶子をつくるとき,分かれて別々の配偶子に入ることを正しく見抜いた点にある。…
※「メンデルの法則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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