改訂新版 世界大百科事典 「ヤシガニ」の意味・わかりやすい解説
ヤシガニ (椰子蟹)
coconut crab
Birgus latro
十脚目オカヤドカリ科の甲殻類。陸上にすむヤドカリで,与論島以南から南太平洋,インド洋の島々に広く分布し,とくにヤシの林などに多いためこの名がある。沖縄八重山地方ではマッカン(あるいはマッコン)とかマコガニと呼ぶ。体長12cm,重さ1.3kgに達する大型種で,頭胸甲,腹部,はさみ脚,歩脚とも著しく硬く,他のヤドカリと異なり巻貝に入らない。生きているときは鮮やかな,あるいは黒ずんだ紫青色で,部分的に赤褐色をおびることが多い。鰓域(さいいき)が大きく膨らんでいるため頭胸甲は全体として三角形に近い。左右の鰓域中央部の間が頭胸甲の最大幅を形成し,甲長よりも大きい。第1触角の柄部は頭胸甲とほぼ等長。はさみ脚は著しく太く,左側が大きい。第1,2歩脚は太い。第3,4対ははさみをもち,第4対めは鰓室内にさしこまれているため見えない。腹部は左右相称で,背甲は石灰化している。雄には腹肢はないが,雌では第2~4節の左側にのみある。夏から秋にかけて雌はこの腹肢に卵をつけ,満月か新月の夜に幼生を海に放つ。ゾエア幼生は約1ヵ月ほどでグラウコトエ幼生となって浜辺につくが,小さなものでは巻貝に入るといわれるが確かではない。
南太平洋の島々では貴重な食料だったので,今では無人島にでもいかないと多くは見られないという。夜になると穴から出て,とくにヤシやタコノキの実を好んで食べる。木へ登ることはたまにあるが,実を切り落とすためであるとか,硬い実を落として割るためというのは作り話である。英名のrobber crab(どろぼうガニ)はヤシの実を切り落として巣に運ぶという言い伝えからきている。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報