改訂新版 世界大百科事典 「ヨーロッパ人権条約」の意味・わかりやすい解説
ヨーロッパ人権条約 (ヨーロッパじんけんじょうやく)
European Convention on Human Rights
正式には,〈人権と基本的自由保護のための条約〉。戦後のヨーロッパ統合運動のなかから,共通の遺産である理想・原則を擁護,実現し,経済的社会的進歩を促進するために加盟国のいっそうの一致を達成する目的で,1949年5月に結成されたヨーロッパ審議会が,世界人権宣言中のいわゆる自由権の集団的保障を確保する最初の手段として作成した。50年11月4日ローマで調印され53年9月3日発効。現在では,旧ソ連・東欧諸国を含むヨーロッパの40ヵ国が加入。この条約は,調印当時合意に至らなかったものや,後日必要とみなされたものを追加議定書によって補っていくという形式をとっており,現在第11議定書まである。この条約の保護する人権はいわゆる自由権であり,生命権,拷問・非人道的待遇または刑罰の禁止,奴隷・苦役・強制労働の禁止,身体の自由と安全,公正公開の審理を受ける権利,無罪の推定,刑事被告人の諸権利,刑法の不遡及,プライバシーの保護,思想・良心・宗教の自由,表現の自由,集会・結社の自由,婚姻し家庭を設ける権利,公的救済の権利,保護されている権利・自由の無差別享有のほか,財産権・教育権・自由選挙の保障,移動・居住・出国の自由,自国からの不追放,自国への入国の自由,外国人の集団的追放の禁止などである。この条約の最大の特色は,条約の履行を確保するための措置,いわゆる実施措置にあり,国際人権規約も米州人権条約も実施措置の面ではこの条約をモデルにしている。この条約はヨーロッパ人権委員会,ヨーロッパ人権裁判所を設置し,委員会には個人も提訴できるシステムを採用していたが,1998年11月1日に発効する第11議定書によって全面的に改められ,裁判所と委員会は廃止され,新裁判所がこれにとってかわる。1996年末までに約3万5000件の個人の申立てがなされ,そのうち約8割が自国政府の人権侵害を訴えた。裁判所が処理した国家間のものでは北アイルランド問題に関するアイルランド対イギリス事件等がある。この条約は人権の国際的保障への道を開いた点で国際法上特筆される。
執筆者:芹田 健太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報