日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーザー治療装置」の意味・わかりやすい解説
レーザー治療装置
れーざーちりょうそうち
レーザーの熱作用による熱凝固、蒸発、切開、溶接、刺激、衝撃などの効果を利用した治療装置をいう。レーザーの種類には、固体レーザーとしてルビー、Nd‐ガラス(ネオジウム‐ガラス)、Nd‐YAG(ネオジウム‐イットリウム・アルミニウム・ガーネット)など、気体レーザーではHe‐Ne(ヘリウム‐ネオン)、He‐Cd(ヘリウム‐カドミウム)、アルゴン、クリプトン、CO2(炭酸ガス)、窒素、キセノンなどがある。最近は半導体レーザー、人工元素レーザー、色素レーザーなども注目されている。以下、おもなレーザー治療装置をあげる。
(1)レーザーメス 脳や肝臓のように出血しやすく、圧迫や縫合が困難な組織の手術にレーザーメスを用いると、血液凝固による止血効果のため、手術を安全かつ容易に行うことができる。また、焦点を拡散させたレーザー光で腫瘍(しゅよう)組織を照射すると、腫瘍組織を蒸発させて無血的に除去することができる。一般にCO2レーザーは切開に適し、Nd‐YAGレーザーは凝固・止血に適している。レーザーメスを内視鏡と組み合わせると、開腹・開胸手術なしに消化管や気管支内の止血や腫瘍切除などが可能である。
血管外科では、光(ひかり)ファイバーを用いて動脈の狭窄(きょうさく)・閉塞(へいそく)をレーザーで焼灼(しょうしゃく)して拡張したり、あるいは血栓を除去する治療に用いられ、エキシマレーザーは紫外領域で血管への熱損傷が少ない利点が注目されている。眼科領域では、網膜剥離(はくり)に対する光凝固治療法にレーザーが利用されているほか、緑内障の治療のため虹彩(こうさい)に小孔をあけるのにも用いられている。また、近視の屈折矯正(きょうせい)治療にも使われている。皮膚科領域ではメスとしての利用のほか、焦点を拡散させてあざやいれずみの除去を行っている。婦人科領域でも子宮腟(ちつ)部糜爛(びらん)の治療が行われている。
(2)レーザー溶接 歯の表面にレーザー光を照射すると、エナメル質の一部が溶融して緻密(ちみつ)な耐酸性の強い構造に変化するので、むし歯予防への効果が期待されている。また、骨折した骨の接合にも応用が試みられている。
(3)レーザー縫合 レーザー溶接の一種で、低出力のレーザーを用いて血管吻合(ふんごう)を行うものである。
(4)レーザー砕石法 尿路結石、胆道(たんどう)結石にレーザー光線を利用して穿孔(せんこう)し、摘出できる大きさに破砕するものである。
(5)光(こう)化学治療 可視光線は生体細胞を傷害することはないが、細胞が光感受性物質を取り込むと、これが光で励起されて強力な酸化力のある物質を生成し、細胞が破壊される。この原理を利用して、さまざまな増感剤を悪性腫瘍の患部の細胞に取り込ませ、これをレーザー光によって選択的に破壊する治療法が研究されている。
(6)レーザー刺激 生体細胞は光線で賦活(ふかつ)化されるので、創傷面をレーザー光で照射すると治癒が促進されるという。また、東洋医学では鍼灸(しんきゅう)に低出力レーザーを使う試みがなされている。
[古川俊之]
レーザー治療の安全対策
レーザー光線による傷害は、火傷や切断などの外傷がおもである。とくに目は網膜損傷を受けるほか、CO2レーザーのような中赤外線レーザーでは角膜穿孔、眼球破裂などの重大な損傷を受ける。このため、レーザーの治療応用にあたっては十分な安全対策が必要である。
[古川俊之]
『長田光博、菊地真編著『レーザー治療最近の進歩』(1997・克誠堂出版)』▽『織家勝著『歯のレーザー治療法 歯科治療の未来』(1998・三一書房)』▽『西田輝夫著『近視レーザー手術 手術を決断する前に』(2001・保健同人社)』▽『矢作徹著『近視レーザー治療レーシック』(2002・旭書房)』▽『大原国章著『あざのレーザー治療 なにが治る、どこまで消える』(2003・保健同人社)』