ワインランド(読み)わいんらんど(英語表記)David Wineland

デジタル大辞泉 「ワインランド」の意味・読み・例文・類語

ワイン‐ランド

Wine Lands》南アフリカ共和国南西部、西ケープ州にあるワイン産地の通称ステレンボッシュパールフランシュフックウェリントンなどの地域をさす。地中海性気候で、水はけのよい粘土質の土壌が広がる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワインランド」の意味・わかりやすい解説

ワインランド
わいんらんど
David Wineland
(1944― )

アメリカの物理学者ウィスコンシン州生まれ。1965年カルフォルニア大学バークレー校を卒業。ハーバード大学大学院に進み、1970年博士号を取得した後、ワシントン大学で博士研究員として、イオン・トラップ(イオンを装置の中で保持する)などの研究に取り組んだ。1975年からアメリカ国立標準技術研究所(NIST(ニスト):National Institute of Standards and Technology)に移り、自ら創設したイオン・トラップの研究チームのリーダーを2017年まで務めた。1985年からコロラド州立大学で講師も務め、2000年からコロラド大学ボルダー校講師。2012年から同大学非常勤(客員)教授。2018年、NIST名誉所員、オレゴン大学最高栄誉研究教授。

 原子光子など物質や光を構成するミクロの世界では、われわれが可視化できる世界と異なり、多重的な状態となる不思議な物理現象(量子的特性)が存在する。存在するか、しないか、あるいはエネルギーが高いか、低いか、あるいは振動しているか、静止しているかが一つの原子、光子で同時に起こることができる。量子の「重ね合わせ」とよばれるもので、この現象を説明するのにオーストリアの物理学者エルウィン・シュレーディンガーは、1935年に思考実験「シュレーディンガーのネコ」を提唱した。外部から完全に遮断された箱の中には、ネコと、放射性原子が崩壊すると毒薬シアンが放出される仕掛けがある。放射性原子は量子的特性に従い、崩壊している、崩壊していないという状態が重なっている。箱を開けると量子の重ね合わせが崩れるが、開けない限り、ネコは死んでいるか、死んでいないかわからないというものである。

 ワインランドは、コロラド州にあるNISTにおいて、周囲を電磁場で取り囲んで、イオンを真空中で一列に並べる小型の「イオン・トラップ」装置を使った実験を行ってきた。そのままでは外部の影響を受けて熱振動するため、絶対零度に近い極低温にして熱振動を抑えることができるのだが、ワインランドはさらに、ここに、イオンの操作と観測のためにレーザーパルスを照射した。この結果、熱振動がほとんどなくなるほどエネルギー状態を最低レベルにすることが可能になった。これによってイオンは「スーパーポジション」とよばれる量子特性をもつようになる。本来、エネルギー状態が一つであるはずのイオンが、高い、低いという二つのエネルギー状態をもつ「重ね合わせ状態」が観測された。シュレーディンガーのネコの思考実験のように、死んでいる状態と生きている状態を実際につくったことになる。

 さらに、ワインランドは、一列に並んだ6個のイオンを、相互に作用しあって全体が異なるエネルギーの重ね合わせ状態にすることに成功。さらに、レーザー光を操作することで重ね合わせ状態をコントロールできることも確かめた。こうした手法量子コンピュータのモデルとなる基本的な操作として注目された。現在も、ワインランドは、イオン・トラップを並べ、イオンを移動させながら計算する量子コンピュータの開発を続けている。さらに、このイオンを使い、セシウムを使った原子時計の100倍も誤差の少ない超精密時計の開発にも成功している。

 1990年デビッソン・ガーマー賞受賞、1992年アメリカ科学アカデミー会員に選出され、1996年アインシュタイン賞、2000年(平成12)玉川大学の量子通信国際賞、2001年アーサー・L・ショーロー賞、2004年フレデリック・アイブズメダル、2007年アメリカ国家科学賞、2010年ベンジャミン・フランクリン・メダル物理学部門賞を受賞。2012年「個々の量子系の測定や操作を可能にする画期的な手法の開発」の業績で、フランスのコレージュ・ド・フランスの教授セルジュ・アロシュ(当時、現在は名誉教授)とノーベル物理学賞を共同受賞した。

[玉村 治 2021年9月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワインランド」の意味・わかりやすい解説

ワインランド
Wineland, David

[生]1944.2.24. ウィスコンシン,ウォーワトサ
アメリカ合衆国の物理学者。フルネーム David Jeffrey Wineland。1965年にカリフォルニア大学バークリー校で物理学の学士号を,1970年にハーバード大学で博士号を取得。ワシントン大学で博士研究員を務めたのち,1975年からアメリカ国立標準技術研究所 NISTに勤める。また,コロラド大学ボルダー校で教鞭をとる。電磁場をうまく設計していくつものイオンを並べたかたちでトラップするという実験を行なった。イオン同士はわずかに相互作用しているため,イオンでの量子力学的「重ね合わせ状態」が実現する。すなわち,エルウィン・シュレーディンガーが提唱した思考実験,「シュレーディンガーの猫」状態をつくったことになる。これをレーザー光で操作すると,重ね合わせ状態をコントロールすることができた。これは量子力学的な素子 qbitを並べたものと同じで,量子計算機のモデルとなる。イオン 6個を並べて基本的な計算ができることを実証し,量子計算機の基礎を固めた。2012年,一つずつの原子光子を巧みに操り,それらがミクロの世界の基本法則である量子力学にそってどのような性質を示すかを調べ計測する実験的方法を開発した功績により,セルジュ・アロシュとともにノーベル物理学賞を受賞した。2007年ナショナル・メダル・オブ・サイエンス,2010年フランクリン・メダルを受賞。アメリカ科学アカデミー会員。

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