ひょっとこは火を吹くときの顔を表現したもので,火男のなまった言葉とされている。陸前地方では大きな面を竈神としてかまどの側の柱に掲げてまつる風習があるが,その起源譚にはヒョウトクとかヒョットコという火焚き男が竈神となったと語られるものがある。ひょっとこはお亀とともに道化役として神楽(かぐら)の種まきや魚釣りの舞に登場し,口をとがらしたようすから潮吹きともいわれている。同様な面は狂言にも用いられ,〈うそぶき〉とよばれる。ひょっとこは火の神,風の神として鍛冶神にもなる。青森県の岩木山神社のみやげ物にひょっとこと鬼の二つの面を掛けた絵馬があり,ひょっとこは鍛冶神の本尊で火を吹く形を表したものと伝えられている。鍛冶神は《古事記》の天目一箇(あまのまひとつ)命をはじめとして片目であるとよくいわれ,また鍛冶師の伝承には片目片足伝承が多い。鍛冶の作業で最も重要なのは,吹子で風を送ることと火の色を見分けることだが,ひょっとこの顔や片足をあげて舞う姿はまさに鍛冶作業に由来するものと見ることができる。また長く火を見る作業に従事していると片目が失明することが実際多いようである。鍛冶は石から金属をつくるという神聖な作業として宇宙創造に比せられ,カオスからコスモスを生み出す媒介の役割を鍛冶神は演ずるのである。ひょっとこはこの鍛冶神の系譜をひく道化でこの世を活性化する存在とみることもできる。
執筆者:飯島 吉晴
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口を極端にとがらせた仮面。やや斜め上に突き出た口のつくりが一般的であるが、筒状になっていて動かすことが可能なものもある。また、この仮面をかぶって演ずる役や、さらに一般的におどけ者、まぬけ者を意味することもある。このような口の形をした仮面は田楽(でんがく)や猿楽(さるがく)の古面にみいだせるが、狂言面の嘯吹(うそふき)と里神楽(かぐら)のモドキ面に代表され、江戸里神楽でひょっとこの名を用いている。口ばかりでなく目を左右に甚だしく離し、片方の眼球が飛び出すばかりで左右のバランスも崩した道化面であり、おかめ、だるまなどと間(あい)の狂言役を演じる。この面を馬鹿面(ばかめん)ともいい、その踊りを馬鹿踊ともよぶことがある。この口つきは神に反抗する饒舌(じょうぜつ)な精霊の姿を根底に宿すもののようだが、語源的には東北地方の竈(かまど)神の火男(ひおとこ)に出たものといわれ、口をすぼめて火を吹くときの顔つきを模しているともいえよう。火男の神像は醜顔で、ヒョウトクともいい、関西ではトクスという。嘯吹のほうは口笛を吹く古語という。
[西角井正大]
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