万民法(読み)バンミンホウ(英語表記)ius gentium ラテン語

デジタル大辞泉 「万民法」の意味・読み・例文・類語

ばんみん‐ほう〔‐ハフ〕【万民法】

古代ローマで、ローマ市民以外にも適用された法規範。ローマ市民にのみ適用された市民法に対するもの。普遍的規範という性格から自然法と同一視され、また国際法の意味に用いられることもある。

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精選版 日本国語大辞典 「万民法」の意味・読み・例文・類語

ばんみん‐ほう‥ハフ【万民法】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 国際法のこと。
    1. [初出の実例]「従来文明国民の間に存立する慣習、人情の原理竝公共良心の要求より生する万民法の原則に依りて」(出典:陸戦の法規慣例に関する条約(明治三三年)(1900))
  3. 古代ローマで、ローマ市民以外にも適用された法。→市民法

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「万民法」の意味・わかりやすい解説

万民法
ばんみんほう
ius gentium ラテン語

古代ローマの、ローマ市民と外国人、あるいは外国人同士の間に適用された法律ユス・ゲンティウムともいわれる。ローマ市民法は、古代の属人主義原則に従ってローマ人にしか適用されなかったが、外国人との商業その他の関係が盛んになり、外国人とローマ市民間、または外国人間の関係を律する規範が必要となり、それがしだいにローマの法廷で使われるようになって、万民法とよばれるようになったものと考えられる。紀元前242年ごろ、前述の関係間に争われる裁判を担当するプラエトル法務官)が新たに選挙されるようになったことは、同じ発展の表れである。ユス・ゲンティウムはほかに、普遍的規範という意味で「自然法」と同義に用いられ、また国際法の意味を表すこともある。

[弓削 達]

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改訂新版 世界大百科事典 「万民法」の意味・わかりやすい解説

万民法 (ばんみんほう)
Jus gentium

ローマ法において,ローマ人のみに適用される市民法Jus civileに対し,ローマ人と非ローマ人および非ローマ人相互間の法的関係を律するために発達した法。ローマ古来の市民法においては,法律訴訟要式行為など厳格な言葉や方式を使うことが必要とされた。これに対し万民法は,ローマの通商の拡大により非ローマ人との関係を規律するため,とりわけ前3世紀以来発展し,その後ローマ人相互間の関係にも適用された,主として取引法分野におけるより柔軟な法(売買・賃貸借などの当事者の同意のみによって成立する諾成契約がその代表例)を意味する。このほか,ローマ法上万民法は,法に服するすべての民族もとで使われる共通の法で,通常自然法に一致するものを指し,あるいは,国際関係を規律する法を指すために使われることがある。
ローマ法
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「万民法」の意味・わかりやすい解説

万民法
ばんみんほう
ius gentium

非ローマ市民にも適用されたローマの法。「ローマ市民にも外国人にも適用され,あまたの民族に共通する法」 (キケロ) 。市民法はローマ市民にのみ適用され,外国人はローマの法の恩恵を享受できなかった。しかし,ローマの四方征服につれて,ローマ市民と外国人,または外国人相互間の争訟が頻発するにいたった。そこで,このような渉外事件を解決すべく,創設された外人担当法務官は方式書において,審判人に対し諸民族に共通な慣習を参酌し,信義誠実や衡平の観念に従って,審理し判決すべきことを指示し,狭い形式主義の市民法に対し,自由な非形式主義的な法を発達させた。したがって,万民法は,ローマ市民法の上に,または市民法とは別個に存在する独立の国際法的存在ではない。また万民法は,ガイウスの「自然の理が全人類の間に制定したものはすべての国民に等しく遵守せられ,すべての民族に用いられるものであって,これを万民法という」という象徴的定義が示すように,自然法とも密接に結びついている。

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百科事典マイペディア 「万民法」の意味・わかりやすい解説

万民法【ばんみんほう】

ラテン語ユス・ゲンティウムjus gentiumの訳。古代ローマで市民権を有しない外人にも適用すべく発達した法。〈万民に存在する自然的理性〉という思想に基づく。取引法がその主内容。市民法(jus civile)に対する。また後には自然法や国際法の意にも用いられた。
→関連項目ローマ法

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旺文社世界史事典 三訂版 「万民法」の解説

万民法
ばんみんほう
ius gentium

古代ローマのあらゆる民族に共通に適用される法
ローマには,市民にのみ適用される市民法(ius civile)と,これとは別に市民以外の者を律する万民法とがあった。帝政時代になり,全自由民に市民権が与えられると,市民法に代わって万民法がローマ法の実体をなすようになった。自然法的色彩が濃い。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「万民法」の解説

万民法(ばんみんほう)
ius gentium

古代ローマの法秩序の一つ。市民法(ius civile)にあい対するもの。都市国家ローマが世界帝国に発展する過程に生まれた法秩序で,ローマ市民にも外国人にも等しく適用された。

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世界大百科事典(旧版)内の万民法の言及

【国際私法】より

…しかし,人がそれぞれに固有・独立の法規範をもった社会集団に属し,しかもその集団の枠を越えて交流しあうところには,いついかなる場所と時代にも今日われわれが国際私法と呼ぶ規範によって規律・処理しているような諸問題が発生する。〈市民法ius civile〉をその名の示すとおり市民権をもつ者に対してのみ適用されると考えていたローマの人々は,外人(この時代には今日いうところの国家がないから,したがって外〈国〉人はいない)との交流関係に適用されるための特別の法律を作り,これをすべての民族の人々に適用される〈万民法ius gentium〉と称した。今日でいえば国際関係に適用される特別の実質法である。…

【自然法】より

…こうした混乱の反作用として,ソクラテス,プラトン,アリストテレスの存在論哲学とその自然法論が生じたのであった。 ところでプラトンにおいてすでに人間本性の法則が,他の宇宙論的法のうちに位置づけられていたが,ストア哲学の中で,全宇宙を支配する神的摂理の法すなわち〈永久法〉と,人間存在に固有の〈自然法〉,それに各国家ごとの〈国法〉が区別され,さらに各民族ごとに多少とも異なって自覚されながら共通に自然法のなごりをとどめる〈万民法〉(私有財産制,一夫一婦制,外交使節の尊重など)が加えられる。この分類はウルピアヌスなどローマの法律家たちに影響した。…

※「万民法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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