三井寺(読み)ミイデラ

精選版 日本国語大辞典 「三井寺」の意味・読み・例文・類語

みい‐でらみゐ‥【三井寺・御井寺】

  1. [ 一 ] 滋賀県大津市にある園城寺(おんじょうじ)の別称。
    1. [初出の実例]「これもって朝敵なり。されば三井寺をも南都をもせめらるべし」(出典:平家物語(13C前)四)
  2. [ 二 ] 奈良県生駒郡斑鳩町三井にある法輪寺の古称、また通称。
  3. [ 三 ] ( 三井寺 ) 謡曲。四番目物。各流。作者不詳。人商人(ひとあきびと)に連れ去られたわが子の行くえを尋ね、駿河国から都に上った母は、清水寺で三井寺に行けば子に会えるという霊夢を受ける。おりから三井寺では少年が僧たちに伴われて月見をしていたが、やってきた女が鐘をつき鐘の故事などを語って狂い舞うのを見て、それが自分の母であることに気づき親子は再会する。

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日本歴史地名大系 「三井寺」の解説

三井寺
みいでら

[現在地名]横手市神明町・平和町・南町

西隣にある丘陵大乗院塚だいじよういんづかの北麓一帯の字地名。地名の由来は、大乗院塚の北側真下にある三井みい寺の伽藍跡から、その境内であったことによるといわれる。現存の寺名はさんいじとよぶが、地名はみいでらと読む。三井寺の名をもつ寺院は多い。三井寺山大乗院は鎌倉期には大乗院塚に建てられ、その後横手寺町に移り、明治三六年(一九〇三)廃寺。三井寺山薬師やくし寺は戦国期末、横手城主小野寺義道が、前郷字三井寺に建立したという。

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改訂新版 世界大百科事典 「三井寺」の意味・わかりやすい解説

三井寺 (みいでら)

能の曲名。四番目物。狂女物。世阿弥時代からあったらしい能。シテは千満(せんみつ)の母(狂女)。子どもを人買いにさらわれた母親(前ジテ)が,清水の観音に参ると,三井寺へ行けという夢の告げを受ける。夢占いの男(アイ)の判断も吉だったので,喜んで近江に向かう。三井寺では,住職(ワキ)たちが稚児(子方)を連れて十五夜の月見をしている。一方,母親は,長らくの物思いで物狂い(後ジテ)となったが,道を急いで三井寺に着く(〈カケリ・上歌(あげうた)〉)。狂女は,能力(のうりき)(アイ)の突く鐘の音に引かれて鐘楼に近づき,とがめられると古詩を引いて許しを求め,みずから鐘を突いて戯れる(〈鐘ノ段〉)。また興奮がおさまると,静かに澄み渡る琵琶湖の夜景を心ゆくまで眺めて時を過ごす(〈クセ〉)。そのうち月見の席の稚児がわが子の千満と知り,狂気も直って連れ立って帰って行く。狂女物の中でも屈指の名作である。沈静の場と興奮の場を交互に配して美しく作曲されている。長唄娘道成寺》に詞章が引用されている。
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三井寺 (みいでら)

園城寺(おんじょうじ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三井寺」の意味・わかりやすい解説

三井寺(能)
みいでら

能の曲目。四番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)の作という説もあり、『申楽談儀(さるがくだんぎ)』に出てくる『鐘の能』が古名ともいう。春の『隅田川(すみだがわ)』と並ぶ、秋の狂女物の名作。行方知れずのわが子を求めて都に上った母(前シテ)は、清水(きよみず)寺で霊夢をみ、門前の夢占いの男(アイ狂言)の勧めで三井寺へと急ぐ。仲秋の名月の夜、三井寺では少年(子方)と住僧たち(ワキ、ワキツレ数人)の月見の宴である。寺男(アイ狂言)のつく鐘の音が琵琶(びわ)湖に響き、狂女の姿で登場した母(後シテ)は鐘をつこうとして制止されるが、漢詩を引用し、鐘の故事を語りつつ、月下に興ずる。少年の名のりで、親子再会して終わる。古来「謡・三井寺、能・松風」として好まれ、とくに鐘に戯れる部分は「鐘之段」とよばれ、優れた作詞・作曲の部分である。『道成寺(どうじょうじ)』の鐘は実物大の作り物を舞台に吊(つ)り上げるが、『三井寺』の作り物の鐘楼はミニチュア化され、鐘は風鈴大で風情を添える。

[増田正造]


三井寺(園城寺)
みいでら

園城寺

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三井寺」の意味・わかりやすい解説

三井寺
みいでら

能の曲名。四番目物。作者未詳。わが子千満を人買いにさらわれた母 (前シテ) が清水の観音に参ると,三井寺へ行けという夢のお告げを受ける。夢占いの男 (アイ) の判断も吉であったため,喜んで近江に向う (中入り) 。三井寺では住僧 (ワキ) たちが稚児 (子方) を連れて十五夜の月見をしている。そこへ物狂いとなった母 (後シテ) が現れ,僧たちの制止もきかず鐘をついて戯れたのち,清澄な琵琶湖の夜景を眺めて時を過す。やがて母は月見の席の稚児がわが子と知り,母子は連れ立って故郷へ帰っていく。名所尽し,鐘尽しの趣深い詞章と,すぐれた作曲により,狂女物の名作とされる。春の『隅田川』と好一対。

三井寺
みいでら

園城寺」のページをご覧ください。

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デジタル大辞泉プラス 「三井寺」の解説

三井寺

滋賀県大津市にある天台寺門宗(天台宗寺門派)の総本山、長等(ながら)山園城寺の通称。「御井寺」の表記もある。延暦寺を“山門”と通称するのに対し、“寺門”と呼ばれる。奈良時代末ごろの創建。本尊は本尊弥勒菩薩。金堂、金色不動明王画像(いずれも国宝)など、数多くの文化財を保有する。

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世界大百科事典(旧版)内の三井寺の言及

【園城寺】より

…山号は長等山。俗に三井寺といい,山門(延暦寺)に対して寺門ともいう。寺伝では,大友皇子の発願にもとづき,その子大友与多麿が686年(朱鳥1)に開創したというが,これは山門に対抗するための付会説で,実際には出土の瓦から,当地に住む大友村主(すぐり)氏の氏寺として白鳳時代に創建されたものであろう。…

※「三井寺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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