三十六歌仙の各家集を集成した一種の和歌の叢書。平安中期,藤原公任が《三十六人撰》を編したのにはじまるといわれ,これよりさき,紀貫之によって六歌仙が撰ばれ,やがて歌合が盛んになると歌人を左右に区分けしたり,歌仙絵が作られたりした。西本願寺に伝わる国宝の《三十六人集》は最も古く完備に近い写本でその数39帖,うち7帖が後世の補筆で,1929年に切断分割された〈貫之集〉下と〈伊勢集〉は石山切と呼ばれて名高い。《三十六人集》はもと白河天皇六十の賀に際し,冊子合といった文芸的遊戯に用いられる贈物として作られたものと思われる。かつて後奈良天皇の愛蔵するところであったが,1549年(天文18)本願寺の証如上人に下賜されて以来,寺に伝襲している。筆者は〈貫之集〉下,〈順(したごう)集〉〈中務集〉の書写が藤原定信と確定されるほか,藤原道子,藤原定実が推定され,約20人ほどの手からなり,平安後期の貴族の書風を知る貴重な資料である。粘葉(でつちよう)装で作られ,表紙は布装。料紙は切継,破継,重継など別種の紙を継ぎ合わせて装飾効果を上げ,それに金銀泥および群青・緑青などで文様,下絵などを書き,絢爛華麗な美本となっている。歌,書,絵画,料紙装飾工芸を統合した芸術作品として貴重である。
執筆者:木下 政雄
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三十六歌仙の家集を集めたもので,6400首をこえる私家集の大集成。院政初期に成立。平安中期以前のおもな歌人を網羅しており,和歌史上きわめて重要。伝本は3系統にわかれるが,欠けた家集を他の系統によって補うなど複雑にいりくんでいる。そのなかで西本願寺本(国宝)は1112年(天永3)の白河法皇六十賀に制作されたものといわれ,美術品としての価値とあいまってとくに貴重。「私家集大成」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…第2は鎌倉時代書写の《新古今和歌集》の断簡である。しかし最も有名で貴重なものは西本願寺本《三十六人集》のうち,〈貫之集〉下と〈伊勢集〉を切った2帖である。本願寺はもと大坂の石山にあり,16世紀中ごろ後奈良天皇から同寺の証如上人が《三十六人集》を拝領した。…
…すでに《万葉集》には,その編纂資料となった《柿本人麻呂歌集》や《高橋虫麻呂歌集》などが見え,個人名を付した歌集が存在していたことが推測できる。平安時代に入ってからは種々の家集が作られ,ついに《三十六人集》のような私家集の集大成もみられるようになった。これら家集の多くは,個人の背後に〈家〉を強く意識したもので,その家の社交的記録の要素ももつ。…
※「三十六人集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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