平安中期の仏教説話集。本来は《三宝絵》という絵巻で,絵が逸亡して詞書だけが残り,かりに説話集なみに扱われている。源為憲が冷泉天皇の皇女尊子内親王の教育用に作った。序によって984年(永観2)冬,円融天皇の女御であった内親王が出家,仏教の概要を知る手引きとして献じたことがわかる。内親王は時に18歳,出家後2年目であった。絵に詞書を配し,上巻仏宝,中巻法宝,下巻僧宝の3巻。絵巻としては《三宝絵》と呼ぶべきだろう。上は仏典中の説話,中は本邦の信徒伝,下は仏教年中行事。仏典や《日本国現報善悪霊異記》,諸寺院の縁起文に拠っているが,逸亡して今日見られない原典もあって,仏教説話文学研究にはきわめて重要である。《今昔物語集》など後世への影響が大きい。現存写本は,漢字と草仮名の東大寺切,漢字と片仮名の東寺本,変体漢文の前田家本などである。読み手と絵巻という形態からみて,漢字と草仮名がもとの姿ではなかろうか。
執筆者:益田 勝実
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平安中期の説話集。3巻。源為憲(ためのり)編。984年(永観2)冷泉(れいぜい)天皇皇女、尊子内親王に献上された。もともと絵を伴っていたが、詞章のみが伝わっている。物語や音楽などのはかない慰みより、仏法に縁を結ぶことをたたえる序をもち、上、中、下巻にそれぞれ仏、法、僧をあて、巻頭にそれらの尊ぶべきことを説き、例証としての説話を列挙し、漢文の短い讃(さん)を巻尾に置く。全体が緊密に構成され、具体的で平易な仏教入門書である。上巻には、釈迦(しゃか)が前生(ぜんしょう)に六波羅蜜(ろくはらみつ)その他の善行を行った説話、中巻には、日本における仏法流布と仏法霊験の説話、下巻には、僧の勤める各種の法会の由来とそのようすを語る説話を配する。
[森 正人]
『山田孝雄著『三宝絵詞略注』(1951・宝文館)』▽『小泉弘・高橋伸幸著『諸本対照三宝絵集成』(1980・笠間書院)』
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…説経唱導の資として多数の証話が求められ,それがやがて説話集や説経集に結晶したわけで,平安時代には,折々の信仰の動向と布教上の実需を反映して,多様な作品が制作された。《日本霊異記》の系譜につながる《日本感霊録(にほんかんりようろく)》(850ころ),上流婦女子向けの仏教テキスト《三宝絵詞(さんぼうえことば)》(984),浄土信仰の盛行が生み出した《日本往生極楽記》(986ころ),法華経信仰の諸相と功徳を説いた《本朝法華験記》(1044)などは,いずれも歴史的意味をになう個性的作品である。基盤となった説経の資料としては,院政期の《法華修法一百座聞書抄》《打聞集(うちぎきしゆう)》などが注目される。…
※「三宝絵詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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