鎌倉時代の説話集。慶政上人(けいせいしようにん)著。上下2巻,全32話。慶政上人(1189-1268)は1217年(建保5)渡宋し,帰国後,京都西山に法華山寺を創建している。本書は,入宋前に編述していたが,帰国後,さる高貴の女性の求めに応じて最終的にまとめ,22年(貞応1)西山の草庵において完成した。上巻21話は僧侶を中心とした発心(ほつしん)談,下巻11話は女性を中心とした往生談を主とする。先行する説話集や往生伝などを参考にしており,とくに《発心集》にならった跡が顕著であるが,単純な引き写しを避け,話の後に編者の感想文を記し,類例をあげるなど,細やかなくふうをこらしている。〈清水の橋の下の乞食の説法の事〉〈恨み深き女生きながら鬼になる事〉など,筋は平凡だが,当時の宗教と現実生活の相関を考えさせる内容を持つ。各話のあとに編者の感想などが加わる方法は,《撰集抄》など,のちの説話集に影響を与えた。
執筆者:桑原 博史
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鎌倉初期の仏教説話集。上下2巻。32話(上巻21、下巻11)を収載。1222年(承久4)成立。著者不明だが、九条良経(よしつね)の長男で入宋(にっそう)経験をもつ慶政上人(けいせいしょうにん)(1189―1268)説が有力。所載説話は、著者自身述べるように、『発心集(ほっしんしゅう)』の編纂(へんさん)上の欠点を訂し、その精神の継承、充実を図る意図をもって、先行説話集にない話材ばかりが集められている。上巻は巻末話を除き、真如(しんにょ)親王や玄賓(げんぴん)ら男性主人公の話、下巻は嫉妬(しっと)のあまり鬼になった女や建礼門院哀話など女性主人公の話で占められる。それらの説話配列には周到な配慮がみられる。本書は、一貴婦人に、発心、遁世(とんせい)、修行のあるべき姿を諭すために編まれたものであるが、同時に、著者自身の道心の指標を示すものでもあった。思想的には『摩訶止観(まかしかん)』など天台教学の影響が強い。また、長大化した説話末評語には随筆文学への萌芽(ほうが)も指摘される。
[木下資一]
『新日本古典文学大系『宝物集・閑居友・比良山古人霊託』(1993・岩波書店)』
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