陶器の加飾法の一つで,その加飾された陶器をも指す。三彩は三色で彩られることを意味するが,陶磁用語としては釉色の数にはかかわらず,一つの器に2種類以上の色釉がほどこされたはなやかな陶器をさす。この色釉は鉛を溶媒剤に使った鉛釉を基礎釉とし,他の釉の掛け合わせは原則として三彩とは呼ばない。白地透明釉,藍釉,緑釉,褐釉などが代表的な色釉である。
三彩は東洋陶磁独特の焼物であり,はじめ中国の後漢時代に華北ではじめられた。この時期の三彩はあまり流行することなく消滅し,六朝後期の北斉時代(6世紀後半)になって再び華北で鉛釉が流布しはじめる過程で再登場してきた。北斉の三彩は白釉緑彩の形で示される。白い胎土に透明釉をかけて白釉をつくり,この白素地に緑釉をたらし込んで三彩をつくる。この技法の延長上に唐時代の三彩が精製されたのである。初唐時代の7世紀中葉に資料があり,盛唐の則天武后の治世に一挙に習熟した。680-690年代である。この盛唐三彩は盛唐ならではの典雅な器形のうえに,透明釉のぼかしの効果を存分に生かして豊麗な装飾を具現したのであり,陶磁界にはじめて華麗な加飾が可能になった。その後,中・晩唐時代には作行は低下するが,実用の器物として三彩は生き残り,海外にも輸出された。その後,宋,遼,金,元,明,清と三彩は受け継がれていくが,三彩釉で絵文様をあらわすため,文様の界線を盛り土した法花は明後期の特色ある三彩であり,明の嘉靖にはじまる素三彩は磁胎に三彩釉を染め分けた異色のものである。
盛唐三彩のはなやかな器物は,他国人をおおいに刺激し,渤海国,新羅国,日本国に三彩がつくられる手本となった。とくに日本の三彩は奈良三彩と呼ばれ,かなり忠実に盛唐三彩の施釉法を見よう見まねで倣っている。つづいて晩唐三彩を模倣したのはイスラム圏である。9世紀にはメソポタミア,ペルシアの地方に三彩窯がおこり,いわゆるペルシア陶器の製作が勃興する機縁の一つをなした。ペルシア三彩は白化粧地に奔放な賦彩と線描による文様表現を組み合わせて,器形は中国様式にしたがいながらも,自在な独自の境地をつくりあげた。
→宋三彩 →唐三彩 →遼三彩
執筆者:矢部 良明
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陶器に2種以上の色釉(いろゆう)を染め分けた加飾陶器の称。この色釉には低火度で焼ける鉛釉が使われる例が多く、習慣上、高火度釉を一器に数種かけ合わせても三彩とはよばない。鉄呈色で褐釉、銅呈色で緑釉、コバルト呈色で藍(らん)釉、そして呈色剤のない透明釉が三彩陶の基本の釉(うわぐすり)である。
中国では早くも前漢時代(前202~後8)に始源的な三彩が試みられ、六朝(りくちょう)時代末期の6世紀後半には、白色の胎土に透明釉をかけ、緑釉を垂らし込む唐三彩の技術母胎が完成し、唐朝に入った690年ごろから貴族趣味に合致した豊麗な唐三彩が熟成した。以後三彩は終始焼造され、宋(そう)三彩、遼(りょう)三彩、元(げん)三彩、明(みん)三彩、法花(ファーホワ)(ソーダ水を含む半強化釉を用いた特殊な三彩)などが系譜を連ね、明後期には磁胎に三彩釉を施す素(そ)三彩が流行した。また中国以外でも、この中国の技法を受けて、渤海(ぼっかい)三彩(渤海国)、新羅(しらぎ)三彩(朝鮮半島)、奈良三彩(日本)、ペルシア三彩(西アジア諸国)などが8~9世紀につくられた。
[矢部良明]
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緑,褐,白の3色で彩色し,低火度で焼きあげた中国の陶器。唐以後東アジアに広がったが,唐三彩が最も名高く,人物,動物,器物など多く明器(めいき)(葬具)に用いられ,華やかな貴族社会をしのばせる。
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…朝鮮,統一新羅時代につくられた,三彩釉を施された陶器。遺品は数少なく,大韓民国国立中央博物館所蔵の有蓋高杯は,蓋受けの立上がりのある浅い杯部に,低い鈍重な感じを与える脚部がついた,統一新羅時代に通有の器形を示す。…
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