聖徳太子の著とされる『勝鬘経(しょうまんぎょう)義疏』『法華(ほっけ)義疏』『維摩経(ゆいまぎょう)義疏』の三疏を一括した呼び名。7世紀の初めにこの順序に制作されたとされるが確証はない。『勝鬘経義疏』1巻は、求那跋陀羅(ぐなばっだら)(394―468)訳の『勝鬘師子吼一乗大方便方広経(しょうまんししくいちじょうだいほうべんほうこうぎょう)』の注釈。しばしばよりどころとされる「本義」と小異の著作が敦煌(とんこう)出土本から発見されたが、その著者は明らかでない。『法華義疏』4巻は、梁(りょう)の光宅寺法雲(こうたくじほううん)(467―529)の『法華義記』を「本義」などの名でよりどころとしながら、鳩摩羅什(くまらじゅう)(344―413または350―409)訳の『妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)』27品(ぼん)(提婆達多品(だいばだったぼん)を欠く)を注釈し、著者独自の見解を諸所に示している。巻頭に聖徳太子の作である旨を注記し、著者自筆の草本と考証された書物が御物として現存している。わが国最古の書物として、また日本書道史上にも重要である。『維摩経義疏』3巻は、鳩摩羅什訳『維摩詰所説経(ゆいまきつしょせつぎょう)』を、僧肇(そうじょう)(383―414)の『注維摩経(ちゅうゆいまぎょう)』を参考にしながら注釈しているが、前二疏のように本義とはしていない。『日本書紀』推古(すいこ)紀に『勝鬘経』『法華経』二経を講じた記事はあるが、『維摩経』講説の記録がなく、またその引用書中『百行(ひゃくこう)』が太子より後の時代の著作とされるなどのことから、『維摩経義疏』を中心に聖徳太子の真撰(しんせん)について疑問がもたれたが、三疏が同一人の著作であることや、内容の識見、長い伝承などから、著者が聖徳太子に帰せられるのがほぼ定説となっている。聖徳太子がこの三経をとくに選んで注釈したのは、天皇が推古女帝であり、摂政(せっしょう)の聖徳太子が維摩詰に擬せられるなどの理由のほか、三経が当時中国における流行経典であったことなどによるとされる。仏教輸入後なお日が浅いのに、大乗精神に対する現実的な理解は著者の非凡を示し、「憲法十七条」とともに日本文化史上きわめて重要な著作である。
[若林隆光]
聖徳太子の著作で,《法華義疏(ほつけぎしよ)》4巻,《維摩経義疏(ゆいまきようぎしよ)》3巻,《勝鬘経義疏(しようまんぎようぎしよ)》1巻の総称。《日本書紀》によれば,太子は606年(推古14)に《勝鬘経》と《法華経》を講じたとあり,《維摩経》のことは不明だが,この講経と義疏の製作は,密接な関係をもっていると考えられる。《聖徳太子伝補闕(ほけつ)記》は,《勝鬘経義疏》が611年,《維摩経義疏》が613年,《法華義疏》が615年に,それぞれ成立したというが,確証はない。このうち《法華義疏》4巻は,太子自筆の草稿本が現存している。太子は,中国南朝の梁の光宅寺法雲や荘厳寺僧旻(みん)の著述に依拠しながらも,しばしばそれを批判して,自説を提示している。《三経義疏》にあらわれた太子の仏教思想の神髄は,大乗菩薩行の実践であった。なお《維摩経義疏》に引く《百行》が太子の時代より後の著述であるところから,太子真撰を疑う説もある。
執筆者:中井 真孝
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…日本人の漢文習得に渡来人の果たした役割は大きいが,日本人が本格的に漢文を習得した痕跡があらわれるのは推古朝である。すなわち,聖徳太子の十七条憲法《三経義疏(さんぎようぎしよ)》などがその成果である。また,この時期にはじまる遣隋使(のちには遣唐使)などは,組織的な漢文受容として大きな役割を果たした。…
…全4巻。《勝鬘経義疏》《維摩経義疏》とあわせて《三経義疏(さんぎようぎしよ)》と称する。法隆寺に伝えられた太子の稿本があり,明治初年皇室に献納され,現在は御物とされている。…
※「三経義疏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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