不作為によって犯される犯罪。人間の行為には作為と不作為とがあり、作為とは積極的な身体活動をいい、不作為とはこの作為をしない場合をいう。このうち、犯罪が作為によって犯されるのが作為犯であり、不作為による場合が不作為犯である。近代刑法は個人の自由を尊重する立場から、作為犯の処罰を原則とし、不作為犯は例外的に処罰されるにすぎない。なぜなら、不作為犯を広く処罰することは、個人に作為を広く強制することになり、行動の自由を制約するからである。
不作為犯が処罰される場合として、真正不作為犯と不真正不作為犯の2種類がある。真正不作為犯とは、刑罰法規が一定の不作為自体を処罰対象として予定している場合であり、たとえば多衆不解散罪(刑法107条)や不退去罪(刑法130条後段)などがそれである。これに対し不真正不作為犯とは、「不作為による作為犯」ともよばれるように、作為犯を予定する刑罰法規を不作為により実現する場合であり、たとえば母親が自分の子供を授乳しないで餓死させれば不作為による殺人罪(刑法199条)にあたるものとされる。このうち刑法典上の犯罪(刑法犯という)では真正不作為犯は若干の例外に限られ、もっぱら不真正不作為犯が問題となるが、逆に、それ以外の犯罪、とくに行政刑法の領域では、行政取締り上の義務に違反する場合、作為犯と同様に真正不作為犯が広く処罰されている。
ところで、理論的には、真正不作為犯は、処罰対象となる不作為が法文上明示されているから問題は少ないが、不真正不作為犯の場合には法文上一般に作為が予定されているから、これがどのような不作為によって実現されうるのかが大いに争われてきた。とくに不真正不作為犯が問題となる犯罪は一般に結果犯(一定の結果を要する犯罪)であるために、なぜ不作為によって結果が惹起(じゃっき)されうるのか、という不作為の原因力(因果性)がいまなお争われている。この点について、不作為には原因力がないとして不真正不作為犯を処罰するのは罪刑法定の原則からみて疑問であるとする見解もみられるが、判例や通説は、不作為には作為と同様の原因力が認められないとしても、一定の作為義務(一般に保障人的義務とよばれる)に違反する場合には、その不作為も作為と同等に処罰されうると解している。ただ、わが国の判例や通説は、不真正不作為犯を殺人・放火といった限られた罪につき例外的に認められるにすぎないものと解している。
[名和鐵郎]
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…しかし,犯罪は,住居から退去しない,幼児に食物を与えないというような不作為によってなされることもある。このような不作為によってなされる犯罪のことを〈不作為犯〉という。不作為犯のうちで,作為の形式で規定されている構成要件(たとえば〈人を殺した〉)が不作為で実現された場合を,〈不真正不作為犯〉または〈不作為による作為犯〉と呼ぶ(これに対し,構成要件自体が不作為の形式で規定されている場合を〈真正不作為犯〉という)。…
…その際考えておかなければならないのは,人の行為の自由との関係,すなわち,人は自分の行為の選択において自由が保証されるべきであると考えるのであれば,作為義務の設定には特別な根拠が必要である,ということであり,この意味で不作為は,不法行為の世界の入口に位置するまぎれもない根本問題である。【藤岡 康宏】
[不作為犯]
不作為により構成される犯罪をいう。真正不作為犯と不真正不作為犯とがある。…
※「不作為犯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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